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豚がつづる読書ブログ


★★★

ピアニストになる夢を諦め、検察官を目指し猛勉強の末、司法試験に合格した天生高春。

天生は司法修習所でトップ合格者と噂される岬洋介と同じグループに割り当てられる。
世間知らずで危なっかしい岬のフォローに回る天生は、岬の秘密を知ってしまう。
そんな折、二人は修習の一環でとある殺人事件の取り調べに立ち会うが・・・。 

岬洋介の司法修習時代を描いたお話。

過去の岬シリーズ同様、謎解き部分はありきたりで物足りないです。
ですが、これもいつもと同様コンクールでの演奏描写が圧倒的で、一瞬で惹きこまれました。
(ミステリよりも音楽描写の比重をもっと増やしてほしいぐらい…)

また、天生を中心とした、脇を固めるキャラクターたちとの岬のやりとりも楽しかったです。 
ピアニストを諦めた凡人の天生と、天才的な岬の対比はまるでサリエリとアマデウスなのですが、あまりにも世知知らずで天然な岬のフォローに回るうちに嫉妬心が消えてしまう、天生の損な役回りは微笑ましいものがありました。

そして、進路に迷いを感じる岬に対しての高遠寺静教官の言葉にも深みがあり、考えさせられました。
「仕事の価値は自分以外の人間をどれだけ幸福にできるかで決まるのだ」。
自分はそれだけの仕事をしているかな・・・と思わず我が身を振り返りました。
さすが中山七里さん、心を刺してきますね笑。

(2020年8月読了)
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★★★

フリーの編集者が刺殺体となって発見され、三人の作家志望者が容疑者として浮上するも捜査は難航。

捜査一課は、警察を退職後作家となったが刑事技能指導員として再雇用された毒島(ぶすじま)を助っ人に呼ぶ。
毒島は冴え渡る推理と鋭い舌鋒で犯人を追い詰めていくが…。

出版業界で殺人事件が起こるたびに作家兼刑事の毒島が呼ばれ、鮮やかに事件を暴いていくという5編のミステリ短編集。

正直、ミステリのトリックや独自性は大したことないと思います。
事件も複雑なものではないし、ミスリードを誘う手口は紋切り型だし、どんでん返しも予想通りだし。

それよりも、この小説の主軸は毒島の吐く毒舌や出版業界の実態のほうにあります。
出版業界に巣食う魑魅魍魎たち(作家、編集者、作家志望者、ファン、実写化するTVプロデューサーなどなど)の実態を面白おかしく活写し、それらを毒島は歯に衣着せぬ言い方で一刀両断していきます。
業界にはびこるモラルも常識もない者たちの生態も何だかリアルで笑えますが、相手を完膚なきまでに叩きのめす毒島のキレッキレな口撃も読んでいて気持ちがいいほど。
業界の裏話も盛りだくさんなので、作者の日頃の鬱憤も大いに含まれているんでしょうね~。
図書館で無料で本を借りてネットで感想をアップする評論家気取りの素人に対しても容赦なくこき下ろしてます。耳が痛い・・・。

中山作品はいつもシビアな皮肉がつめこまれていますが、今作はよりブラックユーモア増し増しで、いつも以上の面白さでした。

ただ、小説界隈でそんなに頻繁に殺人事件は起こらないので、シリーズ化はむずかしいかもしれない・・・。

(2019年9月読了)
どこかでベートーヴェン (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ) どこかでベートーヴェン (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
中山 七里

宝島社 2017-05-09

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★★★

新設高校の音楽科クラスに天才的なピアノの才能を持つ生徒・岬洋介が転校してきた。
彼は卓越したピアノ演奏でたちまちクラスメイトを魅了するが、その才能は羨望と嫉妬をも集めてしまう。
ある日、豪雨により土砂崩れが起き音楽科の一同は校内に閉じ込められてしまうが、岬の勇気ある行動によって全員救助される。
だが同級生が死体で発見され、岬は容疑者となってしまう・・・。

高校生時代の岬の初事件を描いたストーリー。

このシリーズはいつもミステリ部分はおまけで、素晴らしい音楽描写を楽しむことがメインとなっています(そういう方は多いのではなかろうか…)。
なのですが、今作はそれに加え、「才能」を持つ者と持たざる者の葛藤を執拗に描いており、読み応えがありました。

凡人がどれだけの努力をしても到達できない境地に、生まれながらの天才である岬は軽々と達しているという現実の残酷さ。
無自覚な岬にそれをまざまざと近くで見せつけられた同級生たちの嫉妬と劣等感について丁寧に描かれています。

作中の同級生たちは圧倒的な才能を前にした時、嫉妬して岬をいじめたり距離をおいたりするのですが、愚かだと思いつつ、自分もそんな場面に直面したら平静でいられるかはわからないなと思いました。
己を客観視して折り合いをつけるというのが正しいやり方なのでしょうが、それができる人間ばかりとは限らないですよね。
10代の多感な時期に味わう挫折の味はさぞかし苦かろう…と思うけど、若いから違う道を模索できるし立て直しも早いよね…と、岬よりもついつい同級生たちへ同情してしまいました。

また、天才である岬にも彼なりの悩みや不幸があり、タイトルの「ベートーヴェン」が示すような展開になるにつれ、読んでいてやるせなくなりました。
「夢をあきらめるのも勇気がいる」という言葉が胸にしみます。


(2018年9月読了)
ヒポクラテスの誓い (祥伝社文庫) ヒポクラテスの誓い (祥伝社文庫)
中山七里

祥伝社 2016-06-15

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★★★

研修医の栂野真琴は単位不足のため、法医学教室に入ることに。
傲岸不遜な解剖医の光崎教授と死体好きの外国人准教授キャシーに振り回されながらも、真琴は教授の信念と一流の解剖技術を目の当たりにし、法医学にのめりこんでいく。
何の事件性もない遺体を強引に解剖しようとする光崎教授の真意は―—。

5つの連作短編集。
テンポと歯切れのいい文章と、キャラ立ちしている登場人物たちが生き生きと活躍する緩急ある構成に、夢中になって読みました。

どの登場人物も魅力的で、彼らが繰り出す明解な会話や医療に対する真摯な態度にはしびれました。
古手川刑事もキャシー教授も良いのですが、中でも光崎教授の突出したキャラの濃さが半端ない。
「生きている人間は嘘を吐くが、死体は真実しか語らない」という彼の言葉。
数多の死体と向き合ってきた、不遜な性格ながらも凄腕の技術を持つ彼だからこそ言える、短いけれど含蓄のある言葉は後々効果的に響いてきます。

また、「異状死」でもほとんどは解剖されず立件されないという日本の司法解剖の現状や、解剖を忌避する日本人独特の遺族心理など、自分の無知を思い知らされる点もたくさんありました。

人間の実態を見すえる徹底したリアリズムの眼差しは、読者をクライマックスへと力強く導いてくれます。

解剖までの手続きや医療知識が間違いだらけという感想を書いている方もいるみたいですが、エンタメとして楽しめたので気になりませんでした。

(2017年8月読了)
追憶の夜想曲 (講談社文庫) 追憶の夜想曲 (講談社文庫)
中山 七里

講談社 2016-03-15

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★★★

『贖罪の奏鳴曲』の続編。
前作で重傷を負い入院していた御子柴であったが、退院するとすぐに夫殺しの容疑で懲役16年の判決を受けた主婦の弁護を申し出る。
高額報酬を要求する悪徳弁護士で通っている御子柴が、なぜ報酬を望めない主婦の弁護を買って出たのか?
主婦は何を隠しているのか?

クライマックスまで一気読みでした。
御子柴の真意は最後まで明かされず、物語はノンストップで加速していきます。
点と点が結ばれ線になり、線が交錯し面となる展開にはしびれました。

ラストは何となく予想がつきましたが、事件の謎とともになぜ御子柴がこの事件に拘ったかの謎も明らかになり、「贖罪」の言葉の重みに心を動かされました。

御子柴と対決する検察官は岬検事。
なんか覚えのあるキャラクターだなと思ったら、ドビュッシーシリーズ岬洋介の父なんですね~。
二人の対決をまた読みたいと思いますが、この終わり方では次作はどうなっちゃうんでしょう。。

(2016年12月読了)
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プロフィール
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sis
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読書
自己紹介:
読むのがすごく遅いけど、小さい頃から本を読むのが大好き。

大好きな作家は、ジョン・アーヴィング、筒井康隆、津原泰水、中上健次、桐野夏生、北村薫、金井美恵子、梨木果歩。

コンプリート中なのは宮部みゆき、恩田陸、松尾由美、三浦しをん、桐野夏生、北村薫。今のところ、多分著作は全部読んでいます。
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