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豚がつづる読書ブログ

★★★

高校生の小鳩君と小佐内さんは慎ましい小市民を目指し、日々の安寧のためお互いの存在を盾に使うという互恵関係を結ぶ仲。
そんな二人の謎解きを綴った日常ミステリ短編集。

11年ぶりの小市民シリーズ。
前のお話はすっかり忘れてしまいましたが、互恵関係という事は覚えていたので何となく読み進められました。

どの短編も読みごたえがありましたが、一番面白かったのは「伯林あげぱんの謎」。
小鳩が新聞部の部室を訪れたところ、あげぱんをめぐって思案している新聞部員四人がいた。
あげぱんのロシアンルーレットを行ったが、辛子入りを誰も食べていないという。嘘をついている部員は誰なのか――。
小鳩は部員との会話から手がかりをつかみながら推理を進め真実に至るというシンプルなお話ですが、シンプルゆえにごまかせない、公正なタイミングで提示される手がかりや見事な謎解きの深い味わいを堪能しました。

そして最後の短編、「花府シュークリームの謎」。
慕ってくれる女子中学生の窮地を救うため、大活躍する小佐内メインのお話。
隠された悪意を明らかにすることの代償。真実があらわになったとて救われないむなしさを耐えられるのか――小佐内がつきつける覚悟の重さがどっしりと響く、ほろ苦さの残るお話でした。

(2021年2月読了)
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真実の10メートル手前 真実の10メートル手前
米澤 穂信

東京創元社 2015-12-25

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★★★★

フリージャーナリストの太刀洗万智が取材の中で出会った謎を解いていくミステリ短編集。
「真実の10メートル手前」「正義漢」「恋累心中」「名を刻む死」「ナイフを失われた思い出の中に」「綱渡りの成功例」の6編を収録。

『さよなら妖精』『王とサーカス』に続く〈ベルーフ〉シリーズ第3作目。
作中には〈ベルーフ〉という言葉が出てこないので、何だろう?と思い検索したところ、「天職」という意味だそうで。
太刀洗が「真実」と「多くの人に伝えるべき事実」のはざまで葛藤しながらもジャーナリストを「天命」として活動していく、という意味でつけられたシリーズ名なのでしょうか。

基本的に独立したストーリーなのでシリーズの前2作を読んでいなくても楽しめる内容となっていますが、1作目の『さよなら妖精』だけは読んだほうがいいと思います。
太刀洗がどうして記者を職業に選んだのか、彼女の立脚点を知ることができるし、記者として悩む彼女の胸底には必ず10代の頃の苦い思い出が関わっているからです。

どの短編も良かったのですが、「名を刻む死」と「ナイフを失われた思い出の中に」が印象に残りました。

「名を刻む死」では、自分では努力してもどうしようもない事に直面した時に人は忘れるか、自分を苛み続けるか、選択を迫られます。
どちらも選べない場合は、自分に都合のいいストーリーとして受け取るしかない、と言った太刀洗の諦観は同時に生き抜くための強さや知恵でもある…と思いました。

そして、「ナイフを失われた思い出の中に」。
これは『さよなら妖精』のヒロイン・マーヤの兄が訪ねてくる話で、感慨深かかったです。

ジャーナリズムの役割についてマーヤの兄と太刀洗は議論するのですが、難しくて非常に繊細な話なので、理解できない部分もありました。
紛争地で育ったマーヤの兄にとって記者は「あらかじめ結論を用意して報道する」人たちなんですね。
それに対して太刀洗は、「誰も傷つけないために」マスコミとして世に知らしめる「事実」は加工されなくてはならない…という考えを持っています。
ジャーナリズムって何だろう、と素朴に考えました。
難しいですね。

記者として「真実」へ食らいつく太刀洗の危うい姿勢は淡々としていますが、凄まじいものを感じます。
「真実」を明らかにすることでの痛みを真っ向から引き受ける覚悟を決めた彼女の生き方は、ハードボイルドで好感が持てます。

ただ、終始落ち着いたクールなトーンで描かれていくので、間欠的に笑いやウィットに富んだ会話が欲しくなります!
太刀洗のシリアスなスタンスも素晴らしいのですが、扱うテーマが重いので笑いがほしいんですよね…。

(2017年3月読了)
リカーシブルリカーシブル
米澤 穂信

新潮社 2013-01-22

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★★★

父親が失踪し、中学校入学を前に母の故郷へと越してきた少女ハルカ。
新しい環境ににうまく馴染めるか不安を抱えていた彼女だったが、リンカというクラスメートと友達になり、なんとか目立たないようにクラスに溶け込んでいく。
しかし弟は急に予知能力を発揮し始め、それに苛立つハルカはこの地に伝わる、未来を知る「タマナヒメ」の伝承を一人で調査していく。

よそ者を受け入れない閉塞的な周囲の不穏な空気に怯え、家では血の繋がらない家族の顔色を窺う。
そんな逃げようのない状況が少女の一人称で綴られ、真綿で首を絞められるような、痛々しくてイヤ~な感じが、読み手の気を滅入らせてくれます。

不気味な伝奇サスペンス調で話は進んでいき、中盤は少しダレますが、終焉に向って一気に伏線が収斂され、ミステリ的な大きな仕掛けが露呈されていくのが鳥肌ものでした。

結末のその後はどうなっちゃうのだろう…。
最後にハルカが見せる力強さやかすかな希望に少し安心したけれど、姉弟の置かれた状況やこれからの苦難を考えるとやるせない、重い気分になりました。

米澤さんは、人を嫌な気持ちにさせるのがほんとうまい作家ですね(誉めてます)。

(2013年4月読了)

追想五断章 追想五断章
米澤 穂信

集英社 2009-08-26
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★★★★

伯父が経営する古書店でアルバイトをしている休学中の大学生、菅生芳光。
ある日、父親が生前に書いた五編のリドル・ストーリーを探しているという女性が店を訪れる。
高額の報酬に惹かれ、依頼を引き受けることになった芳光は、やがて女性の両親が当事者である事件を知る。
はたして、二十二年前のその夜、何が起こったのか?

リドル・ストーリーとは、結末をあえて書かずに読者の想像にまかせる小説のことなのですが、これらを主人公が探し出し、結末を読み解くことで事件の真相が浮かび上がるという凝ったつくりとなっています。
この作中作のリドル・ストーリーもひねりが効いていて、いろんなお話が楽しめる醍醐味を味わうことができました。

米澤さんの作品は、今まで青春の鬱屈を描いた作品が多かったと思いますが、今回は青春期を過ぎつつある主人公の苦い諦めと煩悶を枯淡でくるんだ感じの話なので、いつもにも増して暗い雰囲気のお話となっています。
好みが分かれるかもしれませんが、私はこの溢れんばかりの暗さが結構クセになってます…。

常に自らのハードルを越える作品を描かれているので、先が楽しみな作家さんです。
この暗さが、この先どんな境地まで到達するのか、見逃せません。

(2012年3月読了)
 


折れた竜骨 (ミステリ・フロンティア) 折れた竜骨 (ミステリ・フロンティア)
米澤 穂信

東京創元社 2010-11-27
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★★★★

魔術や呪いが跋扈する架空の中世イングランドを舞台としたミステリ。

ソロン諸島の領主は呪われたデーン人の襲撃に備え傭兵を募っていた。
そんな折、領主に命の危険を告げに来た騎士ファルクとその従者ニコラ。
彼らの警告もむなしく、領主は暗殺騎士の魔術に斃れる。
領主の娘は彼らとともに殺人事件の謎を追うが、ついに不死のデーン人の襲来が始まった―。

魔法や呪いの有効な世界、そんな制約だらけのルールの中でミステリとしてきちんと成立しているのが素晴らしい。
端正に重ねられるロジックは、無理がなく納得できるものだった。

推理部分だけではなく、魅力的な人物描写や迫力ある戦闘シーンなど、見どころがたくさん。

後半のデーン人の襲来あたりから怒涛の如くの展開に、はらはらしながら一気読み。
特に戦闘シーンには、学園モノのイメージが強かった米澤さんの描写力の高さ・器用さに驚かされた。

少し切ないラストも秀逸。
続篇がありそうな終わり方だったけど、この小説に関しては続きがないほうが綺麗な気がする。

(2011年12月読了)
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sis
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趣味:
読書
自己紹介:
読むのがすごく遅いけど、小さい頃から本を読むのが大好き。

大好きな作家は、ジョン・アーヴィング、筒井康隆、津原泰水、中上健次、桐野夏生、北村薫、金井美恵子、梨木果歩。

コンプリート中なのは宮部みゆき、恩田陸、松尾由美、三浦しをん、桐野夏生、北村薫。今のところ、多分著作は全部読んでいます。
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