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豚がつづる読書ブログ


★★★

来年には世界が滅びると噂される荒廃した世界の片隅で、カバン修理で細々と生計を立てている車椅子の女性シズカ。

そんな彼女の元に、言葉を話す不思議なサル“ノーマジーン”がやってきた。
無邪気なノーマジーンとの奇妙で穏やかな生活がはじまったが、やがて二人の抱える秘密が明らかになっていく──。

体の不自由さとその生い立ちゆえに外界とのつながりを絶ち、ずっと一人で孤独に生きてきたシズカ。
介護ロボットの代わりにやってきたノーマジーンは人間の子ども程度の知能しか無く、はっきり言って役立たず。
手順を覚えられないので家事も頼めない上に仕事の邪魔をする彼を、シズカはとことん邪険に扱います。

本書の2/3以上を占める第一部では、そんな二人のささやかな日常の出来事が淡々と綴られていきます。
現状に不満を持たず、他人を必要としないシズカですが、純粋でひょうきんなノーマジーンに影響され、少しずつ変わっていくのです。
一人きりの閉じた生活よりも張りが出てきて、次第に彼の存在が大きくなっていく様子が、細かいエピソードの積み重ねと共につぶさに読み手に伝わってきます。
自分よりも弱い存在である彼を励ますために歩行リハビリをはじめたり、自分の食事を分け与えたり。
傷つかないように自分を守り、諦めの中で生きていた彼女が、誰かのために何かをしてあげたいと思えるようになる。
それって愛だよね…と、読んでるこちらの心も温かくなってきた矢先、第二部からガラリと様相が変わり、急展開に。

寓話めいた雰囲気から一転し、残酷で容赦のない現実を突きつけられるシズカ。
知らなかったら、幸せが続いたのに。
知ってしまったからには、知らなかった頃にはもう戻れない。
何かに苦しんでいるシズカの様子を敏感に感じ取り、取り繕うように明るくふるまうノーマジーンの姿が切ない。

そしてラスト…残酷な真実と同様に、一度知ってしまった愛する気持ちを手放すことなんて、できやしないのです。
最後にまた、読者の気持ちを温かくさせてくれました。

(2019年11月読了)
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★★★

鳥類学者の相馬日和の妻・相馬凛子は、日本初の女性総理大臣となった。
「総理の夫」という立場になった日和は、妻を支えることを決意。
景気低迷・消費税増税・社会保障などの問題は山積みの上、凛子を陥れる陰謀もちらついて…

政治が舞台なので重い話かと思いきや、テンポ良く綴られた読みやすい政治エンタメ小説という感じでした。
大財閥の次男坊である浮世離れした日和やカッコ良くて完璧すぎる凛子はコミカルで漫画風だけどキャラが立っており、読み口を軽くしています。
日和の母も憎めないキャラで、物語のアクセントになっていました。

さまざまな課題を抱える現状に対し、権謀術数やしがらみに屈せず自らの信念を貫く凛子の姿は素晴らしいのですが、ご都合主義的な展開もあり、少し物語の荒さを感じました。
また、女性総理とその夫という設定ですが、性差や物珍しさはあるものの、別に男女逆でも違和感もなく…多少新鮮だよね、くらいの印象。

ドラマ化しそうなお話なので、キャストを考えながら読むのも楽しかったです。
夫婦愛の話でもあるので、肩が凝らずに気楽に読めました。

(2017年8月読了)
カエルの楽園 (新潮文庫) カエルの楽園 (新潮文庫)
百田 尚樹

新潮社 2017-08-27

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★★★

故郷を捨て、楽園を求めて放浪するアマガエル2匹は平和な国「ナパージュ」に辿り着く。
そこではツチガエルたちが三戒と呼ばれる奇妙な戒律を守って暮らしていた。
争いもなく食物も豊富な夢のような国だと思われたが、やがてウシガエルたちが侵入を始めて・・・。

日本の歴史、現在の日本の置かれている状況を風刺した作品。

寓話というにはあまりにもあからさまで、すぐに何を示しているかわかってしまいます。
三戒は憲法9条、ナパージュは日本、ヌマガエルは在日朝鮮人、等々。

作者の政治的主張がダイレクトに表現されている偏りのある小説ではありますが、日本の現状を俯瞰してわかりやすく描いているので考えさせられました。

あくまでも9条は日本国内の法律であり、9条さえあれば日本は平和なのだという意見はただの平和ボケなんですね。
かといって軍備増強や核武装にも違和感を覚えてしまうのですが・・・。
マスコミの偏向報道や集団心理の恐ろしさも再認識できました。

興味のとっかかりとしては、最適な小説でした。
百田さんの身が心配ですけど。こんな内容の本を出版して大丈夫かな・・・。

(2017年10月読了)
純喫茶「一服堂」の四季 (講談社文庫) 純喫茶「一服堂」の四季 (講談社文庫)
東川 篤哉

講談社 2017-04-14

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★★

鎌倉にひっそりと佇む喫茶店、一服堂の女主人は極度の人見知りで店は閑古鳥が鳴いている。
しかし客が語る殺人事件を推理してみせるときは態度が豹変し、「客の推理が甘い」と罵倒する。
そして人並外れた思考力で事件を鮮やかに解いていく―。

タイトル通り、春夏秋冬に起きた四つの事件を収録した短編集。
キャラの立った登場人物たちが織り成す会話はテンポよく、コミカルでとても読みやすいです。
しかしライトな語り口とは裏腹に、扱う事件は死体が磔にされたりバラバラにされたりとどれも猟奇的で、ほのぼのとした雰囲気とのギャップが面白いと思いました。

トリックは誰にでも途中でわかるような子供だましばかりでちょっとガッカリ。
本の帯に「衝撃のどんでん返し!」と書いてありましたが、わざわざこんなトリックにしなくてもいいのに…。
せっかくの仕掛けがうまく作用されておらず、設定が生きてないような気がしました。

(2017年5月読了)
神様の裏の顔 (角川文庫) 神様の裏の顔 (角川文庫)
藤崎 翔

KADOKAWA / 角川書店 2016-08-25

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★★★

「神様」の異名をとるほどの清廉潔白な教師だった坪井の通夜には、多くの人が弔問に訪れ、みな悲しみに暮れていた。
しかし恩を受けたある数人が過去の事実を突き合わせていくと、徐々に神様の裏の顔が明らかになっていく・・・。

タイトルだけで途中までの展開が読めちゃいますね。
三谷幸喜の舞台・映画の『12人の優しい日本人』を彷彿させるものでした。

神様のようだった故人を回想するうちに本当は犯罪者だったのではないか?と7名が推理していくお話ですが、この推理の応酬がちょっとまどろっこしくて冗長。
読みやすい平易な文章なのですがテンポが悪く、物語に没入できませんでした。
ちょいちょい挟み込まれるギャグは嫌いじゃないですが・・・センスがあるかどうかは謎です。
寒いギャグは嫌いな方も多いので不要かもしれません。。。

ラストのどんでん返しは、筒井康隆の有名なミステリを思い出しました。
過去の古典や名作を思い描いてしまうので、どこか既視感のあるストーリーや雰囲気だということだと思います。
新鮮味があまり感じられませんでした。

(2016年12月読了)
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sis
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非公開
趣味:
読書
自己紹介:
読むのがすごく遅いけど、小さい頃から本を読むのが大好き。

大好きな作家は、ジョン・アーヴィング、筒井康隆、津原泰水、中上健次、桐野夏生、北村薫、金井美恵子、梨木果歩。

コンプリート中なのは宮部みゆき、恩田陸、松尾由美、三浦しをん、桐野夏生、北村薫。今のところ、多分著作は全部読んでいます。
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