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豚がつづる読書ブログ

★★★

〈筆者K〉は戯曲『エピタフ東京』の執筆に行き詰まりながらも、失われつつある東京の魅力への探求を続けていた。
ある日、自分を吸血鬼と名乗る吉屋という男に出会うが―。

〈筆者K〉が執筆に悩みながら東京の日常を過ごすエッセイ風の章、吸血鬼を自称する男の視点の章、そして戯曲『エピタフ東京』の脚本部分と、3つのパートで構成されています。

一応フィクションの体裁を取っていますが、エッセイのような、ドキュメンタリーのような。
ストーリーの起承転結は期待してはいけません。

だんだん〈筆者K〉が恩田陸自身に思えてきて、恩田さんの日々の雑感や小説になる前のアイディアの断片を読んでいる気になります。
それはそれで小説家の頭の中を覗いている感じで楽しいのですが、人によっては読むのが辛いかもしれない…。

時系列もばらばらで、断片的な思考をかき集めたとりとめの無い感じ、この混沌さ・酩酊感がまさに「東京」という都市そのもので、自分にはしっくりきました。
人や物事がバラバラな方向で散らばっているかと思えば意外なところで繋がっていたり。
無機質なようでいて、意外に懐が深かったり。
現実と虚構が違和感なく両立してたり。
なんか東京って改めて考えると不思議ですよねー。
他人のフィルターから「東京」を可視化したら、まったく違った絵が浮かび上がってきそうです。
わたしも何十年も住んでるけど、全容が全くつかめません。

印象に残ったエピソード(というか、断片的思考)をいくつか。
・友人B子と将門塚を訪れたら、こけしの首を捻ったときのキュッという音が聞こえた気がした。
・松本サリン事件が解決する前に、「松本サリンはオウムのしわざ」とガードレールに狂ったように沢山書いてあった。
・記憶の中の安部公房回想録の表紙カバーは、現実では存在しないモノだった。(←こういうの、よくある!と思いました。私だけ?)
・東京のバーで聞こえてきた周囲の会話から、海外ドラマ「セックス・アンド・ザ・シティ」を引き合いに出しながら都市と女性の関係(東京と女子)について考察する。

どのエピソードも少し不思議な話や的を得た考察が多く、心に残りました。

個人的な話になりますが、読んでる途中で不思議なことがありました。
安部公房の小説「燃えつきた地図」について、追う者と追われる者の反転を吸血鬼の吉屋が考察する章があるのですが、このエピソードを読む直前、都内の小説好きが集まるバーで、私は隣に座った初対面の人と「燃えつきた地図」の話をしたんですよ!!
しかも自分から振ったわけではなく、話の流れで相手の方がこの話をしてくれたんですよ。
安部公房を今時読んでいる人も珍しいし、しかもピンポイントで「燃えつきた地図」の話をするなんて!

偶然だなーと思うか、よくあることだよねと思うかはあなた次第です 笑。
まあ、東京だしね。よくある話かもね。

(2019年8月読了)
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★★★

夏流城(かなしろ)での林間学校に参加した光彦と三人の少年を迎えたのは、首を折られた四本のひまわりだった。

不穏な空気が漂う中、光彦は茂みの奥に鎌を持って立つ誰かの影を目撃する。
閉ざされた城で、互いに疑心暗鬼をつのらせる卑劣な事件が続き…、彼らは夏の城から無事に帰還できるのか。

「七月に流れる花」と同時期に城の反対側にいた少年たちのお話です。

「七月に~」を先に読まないと楽しめないので、読む順番を間違えないように冒頭に書いておいてほしいです。
事前情報を持たずに読む方も多いと思うので、そういう配慮は必要なのでは…。
「七月~」では解明されなかった謎もこちらでは明らかになったので、セットで読むことをお薦めします。

通奏低音のように流れる不穏な雰囲気は「七月~」と同じですが、前作が何となくリリカルなひと夏の寓話めいていたのに対し、こちらは冒険譚のような、少し戦闘的な感じ。
やはり少年と少女の違いでしょうか。

それにしても、同じ状況を描いている話なのに、登場人物の置かれた立場によって話の表情が変わるのが面白かった!
見る方向や立場によって全く別の様相が現れていくので、読んでいて飽きなかったです。

最後、通過儀礼を経て大人に近づいた彼らの後姿は頼もしく、眩しい。
この本でミステリーランドのレーベルも完結となるそうですが、少年少女がその時代を卒業していくという、レーベルとしても最後にふさわしいお話になってました。

(2019年2月読了)


★★★

夏流(かなし)に転校してきたミチル。

転校が六月という中途半端な時期だったのと内向的な性格のため、友達が出来ないまま夏休みを迎えたが、彼女のもとに奇妙な「林間学校」への招待状が届く。
呼ばれた子どもは必ず行かなければならないという夏の城で、ミチルと5人の少女たちは不思議な夏休みを過ごすことになる…。

講談社のミステリーランドシリーズの配本なので子ども向けの小説ですが、往年の恩田陸の味付けがなされた、ザ・恩田ワールドなお話でした。
物語を包むノスタルジックで不穏な空気、謎を煽りまくる思わせぶりな演出、静謐で賢い主人公が直面する物悲しい真実。
まさに「恩田さんのいつものやつ」、久しぶりに読んだ気がするわ~!

作品の冒頭、全身緑色の謎の「みどりおとこ」が現れ主人公に迫るところから物語はスタートします。
夏の城に集められた少女たちは、水路に流れる花を観察し記録する、鐘が3回鳴ったらお地蔵様の所に集まる、などの妙なルールを課せられ、隔離された共同生活を送ることになります。
何も知らされていないミチルと同じ視線で読者は物語を進んでいくので、ミチルの不安が直に伝わってきてドキドキさせられました。
稲穂の海の中で停まった列車から飛び降りる場面や水路に流れる花の情景が醸し出す美しくも儚い雰囲気がより物語を謎めいた混乱に導き、最後はどうなるんだろうとページを繰る手が止まりませんでした。

ラストは、子どもには容赦が無くシニカルな方向へ。
何かを失ったけど、同時に何かを得た少女たちの姿が清廉で切ない、印象的なラストでした。

(2019年2月読了)
六月の夜と昼のあわいに (朝日文庫) 六月の夜と昼のあわいに (朝日文庫)
恩田陸

朝日新聞出版 2012-09-07

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★★★

全10編からなる短編集。


各編冒頭に、新鋭画家による絵と仏文学者杉本秀太郎氏による序詞が挿入されており、それにインスパイアされた恩田さんの不穏な雰囲気の小説が並べられている。

小説というよりも奇想・エッセイ・詩に近い感じ。
ある単語の連想から話があちらこちらへと飛び、起承転結もない。
揺蕩うような文章に身をゆだねれば、書き手の視点と共に恩田ワールドをゆらゆら揺れながらさまようことができます。

短編ひとつひとつの良し悪しを評価することもナンセンス。
オチが無くても、物語が破綻していても、気にしない。
この夢とウツツの境界が曖昧な世界に浸って自在に遊ぶことができる人だけが、この本を味わいつくすことができるのです。

(2018年5月読了)
雪月花黙示録 (単行本) 雪月花黙示録 (単行本)
恩田 陸

KADOKAWA/角川書店 2013-12-25

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★★
 
伝統回帰主義を掲げる「ミヤコ」と商業主義的な帝国主義者たちが対立している近未来の日本。
ミヤコの学校の生徒会長選挙を控えたある日、選挙への妨害行為が相次いだ。
そして第三勢力「伝道者」が宣戦布告し、三者入り乱れての攻防戦がはじまった。
 

やっちまったなー感が強い読後感。

和風なキラキラネームを持つ凄腕の美少女と美青年が袴姿で日本刀を振り回し、
華麗でド派手な立ち回りを披露しながら敵を蹴散らす・・・という、既視感のあるベタな設定や演出。
一昔前の少女漫画やラノベを読んでいるようで、痛々しいというか、いまいちノリきれなかった。

縦ロールの髪型で常に背中にバラを背負っていたり、セーラー服姿で剣を片手に一刀両断、とか、登場人物たちのキャラ造形も派手でアニメっぽいんだが、内面に踏み込んだ描写はあまりなく、全体的に薄っぺらい感が否めない。

ラストはいつものアレだし、内容はまあアレなのですが、特筆するとすれば、映画美術監督がわざわざデザインした装丁がすごくかっこいい。
ちゃんと内容に沿ってデザインしたらしく、作品の世界観にぴったりで素晴らしい。
 
 
(2014年4月読了)
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sis
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趣味:
読書
自己紹介:
読むのがすごく遅いけど、小さい頃から本を読むのが大好き。

大好きな作家は、ジョン・アーヴィング、筒井康隆、津原泰水、中上健次、桐野夏生、北村薫、金井美恵子、梨木果歩。

コンプリート中なのは宮部みゆき、恩田陸、松尾由美、三浦しをん、桐野夏生、北村薫。今のところ、多分著作は全部読んでいます。
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