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豚がつづる読書ブログ
かたづの! (集英社文庫) かたづの! (集英社文庫)
中島 京子

集英社 2017-06-22

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★★★

江戸時代にたった一人、奥州南部藩に実在した女大名の祢々(後に清心尼)を主人公にした歴史時代小説。
祢々は八戸南部氏の当主・直政の妻となるが、夫や幼い嫡男が不審な死をとげる。
これはかねてより八戸を狙っていた叔父の仕掛けた陰謀だと確信した祢々は城を継ぎ、女亭主となった。
その後も叔父の策略によって次々に襲いかかる難事に翻弄される祢々の長い闘いが始まった―。

中島さん初の時代小説。
実在した女大名を描いた物語ということで面白そうだなと思って手に取りましたが、読んでみてびっくり。
なんと語り手は祢々のそばに寄り添うカモシカで、死んで角だけになっても「片角(かたづの)」として彼女を助けるという存在。
遊び心が効きすぎたぶっとんだファンタジー要素におののきながらも、読み進めていくうちにすぐ夢中になりました。

多くの困難に直面しながらも祢々は領土と領民を守るため、悩み苦しみ、時に毒づきながら、たくみな手腕で難事を乗り切っていきます。

「戦でいちばん重要なのは、戦をやらないこと」
「戦いが起きてしまったら勝つのではなく負けぬことであり、なるべく傷が浅いうちにやめること」

領土と領民を守るために語られる彼女のこの信条は現代でも実現が難しいものであり、子どもを産むことができる女性ならではの考えだと思いました。
藩内の争いが激化して一触即発の危機を迎え、血の気が多い武士たちは争いを起こすことですぐに死に向かおうとします。
「何でもいいから思う存分叩きたい」「戦いで死ぬのは本望 。自分が討たれることで新しい筋道が立つのであれば、それを大義として死んでもいい」などという男性ならではの荒い理屈には辟易しましたが、それは領土問題や差別問題に揺れる現代日本の姿そのもので、考えさせられました。

彼女に降りかかる艱難辛苦は過酷すぎて、読んでいてつらくなってきますが、河童や大蛇などの伝奇的なエピソードが随所にはさみこまれているので軽妙でユーモアあふれる筆致になっています。
史実や伝説を交錯させて、不可思議な世界で遊ばせてくれるので飽きません。

また、彼女の一生は男たちに翻弄されるものでしたが、耐えて忍んで…という印象ではなく、さっぱりとした、感情的にならない少年のような気質なので、読んでいて気持ちいいんですよね。
友達になりたいくらい笑。

「片角」が最終的に辿り着いた世界で見つけたものは――読み手もまた最後に不思議な伝承あふれるみちのくに誘われ、深い余韻に浸ることができます。

(2017年10月読了)
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小さいおうち 小さいおうち
中島 京子

文藝春秋 2010-05

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★★★★

年老いた元女中のタキが、赤い三角屋根のハイカラな家で女中奉公をしていた日々を振り返る手記。
戦前から戦中にかけて共に過ごした、ある家族との懐かしい日々の思い出。

戦前ののんびりとした雰囲気の中、市井の人々のこまごまとした日常が丹念に、そして鮮やかに、タキさんの目を通して語られていきます。
日本が戦争へと突き進んで行った時代を描いていますが、当時の庶民にとっては「戦争」はどこか遠い国の出来事のように捉えている感じがとてもリアルで、薄ら寒く感じました。

丁寧な文体に、物語の隅々に配された細かい気配りに感心しながら読み進めていくと、終盤に立ち現れる、溢れんばかりの切実でかけがえのない感情に、思わず涙。

タキさんが愛した、小さいけれど思い出がいっぱいつまった、幸せを象徴する「小さいおうち」。
この宝物のような思い出があったからこそ、タキさんもイタクラ・ショージも幸福へ回帰しながら、喪失のその後を生き延びることが出来たのでしょう。

周到に計算された構成が見事。見事に泣かされました。

(2012年11月読了)
ツアー1989 (集英社文庫) ツアー1989 (集英社文庫)
中島 京子

集英社 2009-08-20

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★★★

ある旅行会社が1989年に企画した、香港行き「迷子付きツアー」。
それは、何かを忘れてき た気持ちを演出するためにわざと人を迷子にさせるというものだった。
それから十数年後、香港で「迷子」になったらしい青年にまつわる記憶が錯綜する。

アイデンティティの喪失とか、虚実入り混じる人の記憶の脆さとか、底知れぬ深いテーマを持った話です。
それを感じさせずさらりと描き、とらえどころのない魅力を発揮しています。

何かを置いてきたような気がするだけど、それが何か分からない。
日常からこぼれて落ちていく、言葉に出来ない感情に言葉を与え、くっきりとした輪郭を与えてくれた気がしました。
なかなか捉えにくい感情を掬いあげ、伝えていく力量は単純にすごい!と思います。

(2012年10月読了)

平成大家族 (集英社文庫) 平成大家族 (集英社文庫)
中島 京子

集英社 2010-09-17
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★★★★

元歯科医の龍太郎は、妻と認知症の母、引きこもりの長男と暮らし、平和な隠居生活に満足していた。
ある日、事業に失敗した長女一家3人、離婚した妊婦の次女が出戻り、一気に4世代8人の大家族となる。
それぞれに事情を抱えた彼らに、次から次へと問題が持ち上がる…。

離婚、破産、ひきこもり、登校拒否、介護などの現代社会の問題の縮図のような家族の姿を、ユーモアたっぷりに描いたお話。

一家団結して問題に取り組む昔のホームドラマとは違い、銘々がてんでんばらばらに動き、理解し合っているようで全然わかり合っていない感じが今どきの家族らしいです。

一つ屋根の下で暮らしていても、お互い深くは干渉せず、かといって無関心なわけでもなく。
そんな家族の距離感の描かれ方が絶妙で、作者の暖かい眼差しを感じました。

煩わしいことが多いけど、存在してくれるだけで安心できる、自分を丸ごと受け入れてくれる…家族ってそんなものだよなあと納得できました。

(2012年7月読了)

★★★★

冠婚葬祭のそれぞれをテーマにして描かれた4編の連作集。
人生の節目の儀式に偶然立ち会うことになった主人公達が、複雑に織り成す人間模様に出会うことで何かを感じ取る。

冠婚葬祭というと親戚づきあいとわずらわしさがセットで思い起こされますが、そんな面倒くさくて普遍的な営みの中に、じんわりと沁みてくるような慈味が感じられました。

とりわけ印象深かったのは、最後の「祭」をテーマとした短編。
亡母の生家に集まった中年の姉妹が、うろ覚えのその土地の所作でお盆を迎えるお話。
今はもう亡き人々の面影が立ち現れる場面が圧巻で、遠い過去の先祖とつながった線上に自分は生きており、また未来にもつながっているのだ、と奥行きを感じ取ることができます。

関係ないけど、家族って顔が似てるから、もしどの時代を切り取ったとしても常に同じ顔ぶれの人間が地球上に生きているのかな、と思うと、なんか可笑しくて愛おしい気がします。

(2008年11月読了)

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趣味:
読書
自己紹介:
読むのがすごく遅いけど、小さい頃から本を読むのが大好き。

大好きな作家は、ジョン・アーヴィング、筒井康隆、津原泰水、中上健次、桐野夏生、北村薫、金井美恵子、梨木果歩。

コンプリート中なのは宮部みゆき、恩田陸、松尾由美、三浦しをん、桐野夏生、北村薫。今のところ、多分著作は全部読んでいます。
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