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豚がつづる読書ブログ


★★

大手印刷会社・大塔印刷が後援している女流書道家の坂部幽嶺が姿を消した。

同じ頃、会社の工場では社員三名が相次いで病死していることがわかった。
ちょっと頼りない御曹司の三郎、社長秘書・南知子、史上最速の窓際族・建彦の三人は、事件の調査を社長より命じられる。
そして一見無関係な二つの事件にはつながりがあることがわかる──。

書と印刷の対比をテーマに描かれた物語ですが、壮大なテーマの割には何だか小さくまとまっている印象を受けました。

癖のある独特のリズムで進んでいく文章にノリきれず、つかみどころのないキャラクターに全く共感できず、誰もが予想できる謎解きで拍子抜け。
書家の芸術的な葛藤もイマイチ納得できず、心を揺さぶられることもなく淡々と読み終えました。

門井作品は何冊か読みましたが、たまに「これ、書いてて面白いのかな?」って思う作品があります…。残念。

(2019年10月読了)
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★★★

美術品犯罪に対応する警視庁捜査二課の美術犯罪捜査班。
詐欺ビジネスが疑われる美術品販売会社を相手に、美術知識ゼロの新米刑事と美人女性上司が違法スレスレの悪だくみを暴こうとする。
両社の対決はどう決着するのか――。

門井慶喜の美術ミステリ・神永美有シリーズが面白かったのでそれを念頭に読んだのですが…ちょっとガッカリしました。

美術うんちくはかなり神永シリーズよりも控えめに説明されるので読みやすかったです。
漫画的なキャラが漫画的に行動し、さらに読み口を軽くしています。

面白さを感じた点もたくさんありました。
美術品の価値を決める要素が逆説的に作用してしまうという皮肉的なおかしさ。
絵を描いた当人によって真作が贋作に転じ価値観の反転をはかるという、人を食った展開。
芸術に金銭的な価値をつけることの妥当性を読み手に問いかけるかのような挑戦的な姿勢。

難解でとっつきにくい「美術」の世界を題材にしながらも、敷居を低くして読みやすくしようと心がけていると思われるのですが…モナリザを知らないアホな刑事(よく公務員試験に受かったな…)が無鉄砲に行動する展開はトゥーマッチすぎて脱力しました。
コミカルが過ぎてギャグになっちゃってると言うのかな。

その上、スリリングで読者を高揚させる章もあったのに、最後の章がいろいろ乱暴すぎて閉口しました。
捜査対象者が刑事の〇〇なのもおかしいし、〇に訴えて犯罪を防ごうとするのも変。
絵を〇〇〇ことを〇〇〇のもありえない。
伏字だらけになっちゃったけど。

こんな子供騙しのような話の帰結、読者を何だかバカにしてるのかなと思ってしまいます。
わかりやすく読みやすい、売れる小説を編集者から求められるのだろうけど、読み手もそんなバカじゃない。
美術犯罪捜査班なんてタイトルの本を手に取る時点で、読者も少しは美術に興味を持ってるだろうから、こんな浅い内容は期待してないと思う。

もっと違うやり方で料理すれば面白くなるのに、惜しい作品でした。

(2017年6月読了)
若桜鉄道うぐいす駅 (徳間文庫 か 46-1) 若桜鉄道うぐいす駅 (徳間文庫 か 46-1)
門井慶喜

徳間書店 2014-10-03

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★★


鳥取県のローカル鉄道のうぐいす駅には、昭和初期に著名な建築家が設計したとされる駅舎があった。
しかし、病院誘致のための駅舎取り壊し解体か、保存かで田舎町は揺れていた。
大学院生の芹山涼太は村長である祖父の命令で、駅舎の歴史を調べていくうちにある事実に気づく・・・。

若い主人公の一人称で話が進んでいくので、軽く明るいタッチでとても読みやすかったです。
主人公の涼太は、駅舎保存派の恩師筋と解体派の祖父の板挟みとなって右往左往し、あげくの果てには村長選に出馬することになってしまいます。
テンポ良く話が動いていくので出来のいいスラップスティックコメディ映画を観ている気分になりました。

歴史的建築物のうんちくや具体的すぎる選挙戦術も面白かったし、田舎独特の人間関係や過疎化事情もリアルで読みごたえがありました。

中盤までは中々楽しめました・・・が、ネタバレになっちゃうのであまり書けないけど、お話をきれいにまとめたいせいなのか終盤の展開が雑でした。
肝心の駅舎の謎についても、根拠に乏しい推測であっさりと解決してしまい不満が残ります。

また、涼太が何を考えているかよくわからないので共感しにくかった。
この理由はラストのどんでん返しのための仕掛けだったと最後にわかるのですが、もう少し工夫して描かないとただの優柔不断なナヨナヨした奴と読者に思わせてしまい、読む推進力が削がれてしまうと思いました。

あと、突然生々しい性描写が挿入されてて、びっくりしました。
これ、必要ないと思うわ~。
しかも、いかにも男子大学生の視点から成る稚拙な性描写だったので萎えました。

(2018年8月読了)
注文の多い美術館 美術探偵・神永美有 (文春文庫) 注文の多い美術館 美術探偵・神永美有 (文春文庫)
門井 慶喜

文藝春秋 2017-08-04

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★★★

舌に甘みを感じるか苦みを覚えるかで美術品の真贋を見分けることができる美術コンサルタント・神永美有が活躍する美術探偵シリーズの3作目。


前作同様、美術探偵の神永とワトソン役の美大准教授・佐々木のコンビが遭遇する美術品の真贋を巡って右往左往するという、美術ミステリ短編集。

作者の多彩な知識(というかうんちく)から成る、余裕のある語りに身をゆだねて読み進めれば、一度のみならず二度も覆される珍説の応酬に心おどる…というのがこのシリーズの楽しみ方なのですが。
でも今回はその鑑定の過程にこじつけが多く、短編の多くが仮説で終わってしまい、真贋がよくわからずに物語が閉じてしまうのでスッキリしませんでした。

佐々木教授や、教え子のイヴォンヌのキャラの立ちぶりは板についていて見事なのですが、人物造形に深みはあまり感じられません。
美術品を持ちこむゲストの登場人物に、その美術品にまつわる過去の思い出や思い入れがあり、真贋がわかることによって何かしらの解を得る・・・という話を期待していたので(前作がそうだったので)拍子抜けでした。

佐々木教授の恋路がベースとなる短編が多いのでコミカルで軽いお話になっているのかもしれません。
(40男のシリアスな失恋話なんて読みたくないもんね・・・)

歴史ネタと組み合わせて描けばまだまだネタはあると思うので、次回に期待します!

(2017年12月読了)
ホテル・コンシェルジュ (文春文庫 か 48-4) ホテル・コンシェルジュ (文春文庫 か 48-4)
門井 慶喜

文藝春秋 2015-10-09

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★★★

伝統もありサービスも一流のホテルポラリス京都。
ホテルのスイートに長期宿泊中のお坊ちゃん・桜小路清長が持ち込んでくる厄介ごとをベテランコンシェルジュの九鬼と新人フロント係の麻奈が次々と解決していく短編集。

コンシェルジュとは普通ホテルで快適に過ごすにあたっての相談(観光やお店情報の提供やチケットの手配など)を請け負う人たちだと思うのですが、この作品では桜小路清長が家庭の問題や個人的な問題を思い切り相談しまくってます。
探偵役がコンシェルジュである必然性があまり無いので、現実的ではなくて違和感を少し感じました。

でもその点を除けば、派手さには欠けるけど謎解きの楽しさを味わうには申し分ない連作ミステリです。
それぞれのお話もバラエティに富んでいて、知的好奇心も満足させてくれます。
情報を小出しにして見事解決に至る持っていき方は熟練の手さばきで、安心して読めました。

清長に大学を卒業してもらいたい清長の伯母、資金源である伯母の機嫌を損ねたくない清長、ホテルの売上のために清長に少しでも長くホテルに逗留してもらいたい九鬼、将来コンシェルジュとして仕事をしたいために清長の問題を解決しようとする麻奈。

各々の目的は異なるのですが、九鬼はすべての人が納得でき、幸せになれるような解決策を提示していきます。
それぞれの意図で動く人々を納得させ、物語のドラマに落としこんでいくスリルは謎解きよりも興奮しました。

また続きが出たら読んでみたいと思わせてくれる作品でした。

(2017年5月読了)
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sis
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読書
自己紹介:
読むのがすごく遅いけど、小さい頃から本を読むのが大好き。

大好きな作家は、ジョン・アーヴィング、筒井康隆、津原泰水、中上健次、桐野夏生、北村薫、金井美恵子、梨木果歩。

コンプリート中なのは宮部みゆき、恩田陸、松尾由美、三浦しをん、桐野夏生、北村薫。今のところ、多分著作は全部読んでいます。
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