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豚がつづる読書ブログ

★★★

皇居のお濠沿いの宴会場・東京會舘を舞台に、大正から昭和、平成にかけて、そこで過ごした人々の思いをつづった連作短編集。

歴史小説と言っていいんでしょうか、東京會舘という「場」の歴史ドラマと、その「場」にまつわる人間ドラマが描かれている作品です。
辻村さんの著作は初期はミステリや青春ものが多く、こういうパターンのお話はこれまでにない試みだと思われるので、新鮮な気持ちで読みました。

大正十一年、皇居のお濠沿いに竣工した東京會舘はわずか十ヶ月で関東大震災により被災。
再建後も大政翼賛会とGHQ による二度の接収に遭うという、歴史の荒波にさらされ続けた建物です。

上巻は関東大震災後の大正十二年から、東京オリンピック後の昭和三十九年にかけての五篇の短編となっています。
五篇のうち三つは東京會館の従業員が語り手のため、「お仕事小説」としても楽しめます。
大政翼賛会に接収される当日の責任者、GHQ接収時のバーテン、初の土産用の箱菓子の開発に奮闘する製菓部長など、お客に寄り添って常に安定したサービスを提供し、そのうえ研鑽を怠らず矜持を持って働く人々。
仕事に対する姿勢についていろいろ考えさせられます。

下巻も楽しみです。

(2020年2月読了)
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★★★★

13話の怪談・不思議な話を集めたホラー短編集。


作者の辻村さんを思わせるような、小さな子供のいる作家が主人公の話が多く、まるでエッセイのように感じられます。

既視感のあるありがちな短編も多いのですが、辻村さんの手にかかると途端に怖くなります。
リアルとフィクションの微妙なさじ加減がうまく、話が現実味を帯びていて…とにかく怖いのです!
細部まで目配せされたテクニックと構成が素晴らしく、ゾクゾクしながらも舌を巻きました。

ホラーって、登場人物が理由も理屈もなく、理不尽な目に遭うのが一番怖いと思うのですが、どの短編でもそのあたりがうまく処理されていて、感心させられました。

最終話の「七つのカップ」だけ、亡くなった子どもとその親を描いたあたたかいお話となっており、豊かな気持ちで本を閉じることができました。

(2019年12月読了)
オーダーメイド殺人クラブ オーダーメイド殺人クラブ
辻村 深月

集英社 2011-05-26

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★★★

母親の無理解に閉塞感を抱き、友人関係でも息苦しい日々を送る中学2年の主人公・小林アン。
普通の中学生とは違う「特別な存在」となるために、同級生の「昆虫系」男子徳川に、自分が被害者となる殺人事件を依頼する。
果たして二人の計画は遂行されるのか――。

いわゆる「中二病」のイタイ中学生のお話です。
読んでいてむずがゆくなるほどの痛々しさに雄叫びをあげそうになりました。
生々しい中学生の痛さにリアルに迫ったという点では、百点満点をあげたい作品です。

主人公の小林アンは「リア充」の普通の女の子ですが、若さゆえの自意識過剰と自己顕示欲の強さをこじらせていて、自分は他の人とは違うという考えにがんじがらめになって生き辛い思いをしています。
中学生なんてたいてい学校と家庭の狭い世界で生きているものですが、その中で自分を追いつめ、「死」という空想に自らの痛みを投げ出すことで、現実の痛みとの差を埋めようとしてもがいているんですね。

友達全員に無視されて教室で居場所をなくしても、死ぬということを心の寄りどころにしている。
こんなつまらない世界に埋もれるより、世間に永遠に名が残るようなセンセーショナルな死に方をしたいっていうのは、何となくわかるような気がします。
はるか昔に青春を送った身には、彼女の切実さには共感するし、愛しくて、眩しかったです。

ラストについては、清らかで素晴らしい‥‥というのは半分で、あとの半分は「はあ??!!」って感じでしたね‥‥。
世間にもまれて薄汚れてしまった私には何とも言えないラストでした‥‥。

(2015年12月読了)
水底フェスタ (文春文庫) 水底フェスタ (文春文庫)
辻村 深月

文藝春秋 2014-08-06

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★★★

昔からのしがらみが残る閉鎖的な村が誘致した野外フェスティバルで、村長の息子・広海は由貴美と出会う。
村を捨て東京へ出て行ったモデルの由貴美に広海は魅了され、「村への復讐に協力してほしい」という彼女の企みに応じることになったが、実は由貴美には真の目的があった。

タイトルからは予想もつかない内容で、非常に怖いお話でした。

まず、古い因習に縛られたいわゆる「田舎」の描写がいかにもありそうで、そこはかとなくリアル。
村ぐるみでどんな不都合も隠蔽する排他的な共同体の様子が細かくスケッチされていて、過剰な展開も絵空事でないと思わせてくれます。

そして、穏やかだけれども退屈な日常に倦み閉塞感を覚えている広海は、由貴美という外部の「異端」に触れたことによって、信じていた世界がガラガラと音を立てて崩れ、それらが実は欺瞞に満ちたものだとわかってしまうのです。
・・・ほんと、救いの無い話。

一番哀れだったのは、由貴美でしょう。
因習を嫌って村を出て行ったはずの彼女がいちばん村に囚われ、身動きがとれない状態。
仕事や人間関係に傷ついた彼女は「血縁」(=究極の地縁)という拠り所を求めていただけなのに、それを広海の父親に否定され・・・、ただただ可哀想でした。

今まで辻村さんの作品は、自意識過剰な思春期の子ども達が閉鎖的な空間(学校)で事件を起こすといったパターンが多かったのですが、このお話もムラ社会という閉じた舞台ではあるものの「大人の理屈」がまかり通る薄汚れた話だったので、こんなのも描けるんだなー、と意外でした。

あと、ファムファタールとしての由貴美が全く魅力的じゃなかったです。
「芸能人」「すごく綺麗」というアイコンはしきりに強調されるんだけど彼女の魅力がちっとも描写されないから、なんだか物語のために動かすコマみたいに感じてしまい、白けてしまいました。

(2015年1月読了)
太陽の坐る場所 (文春文庫) 太陽の坐る場所 (文春文庫)
辻村 深月

文藝春秋 2011-06-10

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★★

卒業から10年、F県立藤見高校のクラスメイトだった同級生の1人が、女優として成功を収めていた。
次の同窓会に呼ぼうと盛り上がる同級生たちは、彼女に連絡をとることで、当時の苦い記憶を思い出し・・・。

同級生の5人を主人公にした5編の連作集。
こういう語り手が変わっていく連作集は、同じエピソードが異なる視点で語られていくことで、それまでとは全く違う意表をついた展開になったりするので結構好きです。
このお話もそんな感じで、どんどん謎がつまびらかになっていく手法がうまくいっていると思いましたが、謎自体がしょぼかったのでちょっと肩すかしでした。

それに、わたしの想像力が足りないせいかもしれませんが、登場人物の気持ちに共感できなかったです。
高校時代のスクールカーストの様子はうまく語られていて、当時の息苦しさを思い出させてくれたのですが、大人になった今も登場人物たちがそれに囚われ、過去にひきずられすぎているのはあまりリアルじゃない。

カースト上位者への劣等感、嫉妬、虚栄心、地方に住み続けている同級生への優越感など、誰しもが持つ負の感情だけを顕微鏡で拡大してずっと見せられている感じで、読んでいる間、いい気分はしなかったです。

負の部分をえぐり出し、むきだしにするやり方は桐野夏生のお得意の方法なんですが、桐野さんと違って深みや考察が浅いので、イヤな気分だけが残るというか。

わたしはこれだけ人間の負の部分を冷静にさらけ出せるのよ、という著者の自己顕示欲や自己陶酔が透けて見え、鼻につくんですよね・・・。

同じようなテーマの「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。」は面白かったのにな。

(2014年12月読了)
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sis
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読書
自己紹介:
読むのがすごく遅いけど、小さい頃から本を読むのが大好き。

大好きな作家は、ジョン・アーヴィング、筒井康隆、津原泰水、中上健次、桐野夏生、北村薫、金井美恵子、梨木果歩。

コンプリート中なのは宮部みゆき、恩田陸、松尾由美、三浦しをん、桐野夏生、北村薫。今のところ、多分著作は全部読んでいます。
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