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豚がつづる読書ブログ
★★★

小型飛行船・ジェリーフィッシュの新性能の航空試験中、不審な死亡事件が発生し、その上、雪山に不時着してしまう。
脱出不能の中、次々と船内で開発メンバーが殺されていく。
数日後、不時着したジェリーフィッシュから六体の死体が発見されるが――。

殺人が起きる飛行船内パートとその事件の捜査のパートが交互に描かれ、真実が明らかになっていく展開にわくわくしながら読みました。
刑事の軽快な会話も楽しいし、作者のミスリードにはまんまとひっかかったし、ページをめくる手が止まらなかった!

ただ、特殊技術の化学的な説明が全く頭に入ってこず…。
犯人の動機もいまいち納得感がありませんでした。

作り込まれた世界観には没入感があり、印象深い作品でした。

(2024年1月読了)
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★★★★

初代司法卿・江藤新平と尾張藩士の鹿野師光が探偵役となるミステリ短編集。

江戸から明治へと変わる動乱の中、二人は五つの事件に遭遇する。
謎解き要素も楽しみつつ、当時の時代背景を色濃く反映した動機や人間ドラマに心がかき乱されました。

しかし、連作ごとに積み重ねられていった二人の友情が、各々の信じる正義ゆえ、道を違えすれ違っていくさまは何ともやりきれなかった。

少し唐突に思えたほどの、余韻が残る幕切れも切なかったです。

(2024年1月読了)

★★★

雷の夜に助けた女性から雨宿りのお礼にと、降霊会に誘われた主人公。
そこで忘れかけていた自身の過去に思わぬ再会することになる…。

前半は、同級生のキヨをめぐる霊たちとの再会を描く。
裕福な家庭で育った主人公のゆうちゃんは、貧しいキヨに対して疎ましさと後ろめたさを感じ、どこか溝を作ってしまう。
戦後復興期、大人も子どもも必死に生きている中、誰も救うことができなかった子の哀切が胸に迫る。

そして、学生運動が盛んな時期、自堕落な青春の中で出会った恋人の霊を呼び出そうとする後半。
若さゆえの傲慢さによって愛することも愛されることも自ら手放した主人公。
時を経てもどこか独りよがりな主人公が過去と向き合った時、残ったのは救済ではなく鉛のように重い悔恨の念。
どこか虚しさの残るラストは後味が悪くほろ苦かったです。 

(2023年5月読了)


★★★


明治天皇崩御に際し、渋沢栄一ら政財界人は神宮を帝都に創建すべしと主張するが、林学者の本郷高徳らは風土の適さぬ土地に森を造るのは不可能と反論し、大激論となる。
大衆紙の記者瀬尾亮一は神宮造営を調べる同僚に助力するうち、取材にのめり込んでいく・・・。

明治神宮造営という観点から明治時代がどのような時代だったかを紐解いていく物語。
かなり堅苦しい主題ですが、さすがは朝井まかてさん。
一般市民の記者という神宮造営の「外」の視点から専門的なことも噛み砕いてやわらかく語られていくので、読み手も興味をつないでどんどん読み進めていくことができます。

しかもこの主人公の亮一という男、記者という立場を利用して、醜聞をネタに金持ちから金を巻き上げるチンピラみたいな奴なのです。
帝大を中退し大手新聞社をトラブルで辞め三流紙に落ちぶれたという経歴のせいか、仕事のモチベも失い何だかやさぐれている。
そんな亮一が、同僚の活発な女性記者に触発され、神宮造営を取材していくうちに記者魂が目覚めていく。
次第に激動期の日本を支えた明治天皇の生涯に思いを馳せ、独自取材を進めていくようになります。
このへんの描写が非常に巧みで、亮一の心情変化には違和感なく自然に納得できました。

天皇を精神的支柱として敬い親しんできた民衆の思い。
そして、近代国家へと変貌する時代の流れに添い、前例のない天皇としての役割を課され、苦悩しながら模索していく明治天皇の姿。
天皇とは何か、日本人にとって天皇の存在はどういうものなのかという、現代においても問いかけられる命題に真正面から取り組み、その正体をあらわにしていく作者の手腕には鳥肌が立ち、言葉にならないほどの感銘を受けました。

明治神宮という美しい森が歴代の人々の努力と熱意によって作り上げられた事と同じように、今の日本人の根幹も同じ経緯でを築かれたのだと、気づかされました。

(2020年8月読了)


★★★

生まれながらの聴き屋体質にして名探偵の柏木と、彼を取り巻く愉快で風変わりなT大学芸術学部の面々が推理を繰り広げる連作集。


「聴き屋」シリーズ第2弾。

相談に乗るのではなく、ただ人の愚痴や悩みを聞くだけという聞き上手の柏木が、結果的に謎解きを行い悩みを解決するというシリーズの短編集です。
ただ、聴き屋という属性がうまく発揮されていない話もあり、芸術系大学生が主人公の日常ミステリもの、という体裁の話になっています。

いずれも人のささいな言葉や行動を深堀りし、豊かな想像力に根差した論理的思考により推理していく手法を取っています。
その他人への深い洞察が明らかにする人の機微の細かさが見事で、静かな感動をおぼえます。
また、読み手の固定概念をひっくり返される展開に毎回気持ちよくだまされました。

印象に残ったのは、子役の少年の謎の行動の理由を探る「世迷い子と」というお話。
有名子役の良介はロケの撮影中に突然何かに怯えて池に飛び込み、撮影中止となってしまう。
良介は怯えた理由を言おうとせず、聴き屋の柏木がそれを探ることに。

変わり者として孤立感を抱えた良介の心に寄り添い、丁寧に解きほぐしていく柏木の優しさが沁み入ります。
自分の価値観に合わない、共感できないことに対して「あなたって変わってるよね」と決めつけすぐ排除しようとする人、どこにでもいますよね。
私も何百回も同じ目に遭っているので、その孤独感、わかります・・・。
生き辛さを覚える<変人>に対する柏木の眼差しがあたたかく、何だか嬉しくなりました。
<変>というのも一つの個性なのだと多様な価値観を提示してくれ、物語の奥行きがぐっと広がったように思いました。

次巻も楽しみ。早く出てほしい!

(2019年5月読了)
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読書
自己紹介:
読むのがすごく遅いけど、小さい頃から本を読むのが大好き。

大好きな作家は、ジョン・アーヴィング、筒井康隆、津原泰水、中上健次、桐野夏生、北村薫、金井美恵子、梨木果歩。

コンプリート中なのは宮部みゆき、恩田陸、松尾由美、三浦しをん、桐野夏生、北村薫。今のところ、多分著作は全部読んでいます。
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