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豚がつづる読書ブログ


★★★

ダイニングバーを友人と共同経営し、愛する妻子とつつましくも穏やかな生活を送る向井聡。

ある日、彼は「あの男たちは刑務所から出ています」とだけ書いてある手紙を受け取った。
向井はある女性と16年前に交わした「誓約」を思い出す。まさか、あの時の約束を果たせというのか―?

過去に罪を犯した人間は幸せになってはいけないのか、というのが作品のテーマ。
犯罪者だった人間が掴んだ幸せを守るため、自分の罪と向き合っていくというお話になってます。

いつも贖罪という同じテーマを扱っている著者の作品ですが、今回も被害者と加害者を描いた薬丸さんらしいお話です。

過去に犯罪を犯したけども今は更生し、愛する守るべき人がいる主人公は、人を殺さなければいけない事態に直面してしまいます。
それは過去に起因する、いわば自業自得ゆえに陥った事態なのですが、そんな状況で人はどう行動するか、著者は容赦の無い筆致でぐいぐい物語を引っ張っていきます。
そして物語は思いも寄らなかった方向へと展開していき、ページをめくる手が止まりませんでした。

こういうお話を読むたびに、自分が同じ立場だったらどうするか考えてしまいます。
加害者だったら、反省しただけで更生といえるのか。
被害者の家族の立場だったら、復讐に目が曇り、まともな判断はできないかもしれない。
事件の加害者は受刑後、社会に出て普通の暮らしを送ることができるけど、被害者には救済がありません。
正解は無いし、重いテーマですが、考え続けていかなくてはいけないな、と強く思いました。

真相は先が読めてしまったし、展開も現実的ではない点があったのでちょっとガッカリでした。

(2019年12月読了)
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★★★

「罪はまっとうに裁かれるべきだ」がモットーのヤメ検弁護士・佐方貞人。

彼が弁護することになったのは、ホテルの一室で起きた刺殺事件の被告人。
物的証拠・状況証拠共に被告人の有罪はほぼ確実だったが、佐方はそれを覆せる勝算があった。
はたして佐方は事件の裏側に隠された真相に辿り着けるのか。

物語は、刺殺事件の裁判と交通事故で子どもを失った夫婦の話が交互に語られていきます。
少しずつ真相に迫っていく展開にはどきどきさせられました。

公判の最終日まで被告人と被害者が明らかにされない点は最初から不自然さを感じ、ラストまでの展開が見えてしまいました。
このミスリードはバレバレなのであまり効果的ではないと思うのですが、人間ドラマの方に主眼が置かれているので問題ありません。

そんなミステリ的な仕掛けよりも、子どもを奪われた親の苦しみや行き場のない怒りの方に心を揺さぶられます。
罪は罪として、まっとうな手続きや手段によって裁かれるべき、という佐方が提示する「正義」についても、そのブレない姿勢は心に響きました。

裁判描写にはいろいろアラがありそうな感じですが、ぐいぐい引っ張る圧倒的なリーダビリティと読者の魂をガンガン揺さぶる情感描写テクニックが半端ないので次の作品も読んでみたい、と思わせてくれるお話でした。

(2019年4月読了)


★★★★

「ランチのアッコちゃん」の続編。
アッコちゃんこと黒川敦子女史がメインで登場する前半2篇と、カメオ出演程度にちらっと登場する後半2篇という構成の連作短篇集。

正直、前作の「ランチのアッコちゃん」の内容を忘れかけていたので、この本の最初のうちはライトなお仕事小説だな、と思いながら読み進めました。
いま流行の、「恋も仕事も全力投球、仕事を通じて最後には何かを得ることのできるスイーツ成長小説!」ってやつでしょ、って。舐めてました。すいません。

お仕事小説という印象は変わらないのですが、アッコさんの想いがしみじみと沁みこんでくる滋味に富んだお話でした。

わたしが印象に残ったのは、「メトロのアッコちゃん」というお話。

ブラック企業に勤める主人公・明海は心身ともに限界。
地下鉄のジューススタンドの店員のアッコさんに毎日強引に野菜のスムージーを渡されます。
最初は嫌がっていた明海ですが、スムージーを飲むことで、少しずつ自分を取り戻していくのです。

スムージーを毎日飲んだからって、人生はいきなり変わらない。
そんなことはわかってます。そんなんでうまく行くんなら、ファンタジーです。
アッコさんもそのことをはっきり言ってくれます。
「朝食をちゃんと食べたからって、人生は変わらない。そんなもの自己満足で、誰かに評価されるわけでもない。
でもどうせ仕事をしなきゃいけないんだったら、誰かの役に立ちたいの」
そうなんですよね、と大きく頷きました。
誰かの役に立ちたい、そこに仕事の意味を見出してもいい。
誰かの役に立つことで自分が救われるなら、それでもいい。
偽善とか欺瞞だって言われてもいい。そういうやつは言わせておけばいいのです!
なーんて、目頭が熱くなってしまいました。

不全感で縮んだ自我を肯定してゆく過程を描く、女性が共感できるお話ばかりでした。
働く女性にお勧めの1冊です。

(2017年12月読了)
からくり同心 景 (角川文庫) からくり同心 景 (角川文庫)
谷津矢車 THORES柴本

KADOKAWA/角川書店 2015-08-25

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★★

父の跡を継いで同心となった慎之介は、壊れて動かない一体のからくり人形と出会う。
そのからくり人形『景』を正体不明の襲撃者が襲うが、突然動き始めた景は高い戦闘力で撃退した。
景は美しい若武者の姿に擬態し、慎之介を唯一の主と認めて付き従うようになるが…。

最初は現代調のライトな筆運びにとまどいましたが、一種の「ネオ時代小説」というか、和製ファンタジーだと理解しました。
簡単に言えば、高い戦闘力を持ちながらも記憶を失ったドラえもん(またはキテレツ大百科のコロ助)を主人公が拾って、ドラえもんを発明した黒幕と戦う、という話です。

ありがち展開には既視感を感じながらも、躍動感あふれる戦闘シーンや景と人間たちのちぐはぐな会話を楽しみました。

話はまだまだ序章のうちに終わってしまったのですが、編集者による無断改変により本書と続編は絶版だそうで。
続きが読めず、残念です。

(2017年5月読了)
ランチのアッコちゃん (双葉文庫) ランチのアッコちゃん (双葉文庫)
柚木 麻子

双葉社 2015-02-12

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★★★

何もかもうまくいかず、行き詰まりを感じている派遣社員の三智子。
そんな彼女に、一週間お互いのランチを交換しようと提案する敏腕上司の「アッコ女史」こと黒川部長。
渋々受け入れた三智子ですが、その後の一週間は驚きの連続で、いつの間にかランチタイムが楽しみになってきて・・・。

軽妙洒脱な4つのお話が入った短編集。
アッコちゃんのお話は最初の2篇だけなのですが、後の2篇にもアッコちゃんはチラチラ出てきます。

悩む女性の会社員が食事を通して自分のこれからを思索し、一歩前へ踏み出していく・・・という、まあこれだけのお話なんですが、歯切れのよい会話とテンポよく進んでいく語り口で、肩の力を抜いて読めました。

仕事も恋愛も歯車が合わず空回りしてしまう気持ちがよーくわかるので、感情移入しつつ、登場人物たちの微妙な心の襞を開いていく過程を味わうことができました。

ご都合主義的展開もたくさんありましたが、そこは気にさせない勢いがありましたねー。
変化を恐れず常に走っていこうという、今の時代に合った内容なのでこの本は良く売れたのかなーと思います。

爽やかな読後感に満足の一冊でした。

(2016年6月読了)
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sis
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読書
自己紹介:
読むのがすごく遅いけど、小さい頃から本を読むのが大好き。

大好きな作家は、ジョン・アーヴィング、筒井康隆、津原泰水、中上健次、桐野夏生、北村薫、金井美恵子、梨木果歩。

コンプリート中なのは宮部みゆき、恩田陸、松尾由美、三浦しをん、桐野夏生、北村薫。今のところ、多分著作は全部読んでいます。
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