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豚がつづる読書ブログ


★★★

異端の女性民俗学者・蓮丈那智が、助手でワトソン役の三國と共に事件を解決するシリーズ第三弾。
四篇の短編集。

このシリーズの魅力は、実際の事件と民俗学上の謎がリンクし同時に謎が解かれていくところにあり、毎話読後にカタルシスを感じることができます。
新しい助手の佐江や教務課のキツネ目の男がレギュラー化し、冬弧堂の陶子やバー香菜里屋も出てきて北森作品のオールスターキャスト総出演となっており、読み応えがありました。

「憑代忌」のラストの種明かしは鮮やかで驚かされるし、「棄神祭」の謎の着地点もドキッとさせられて楽しい。
表題作の「写楽・考」はスリリングな読み口にハラハラしましたが最後はちょっとこじつけ感がありました。

考えがブレない、他人に影響されない蓮丈那智が完璧すぎて馴染めない分、頼りなくて人間くさい三國の言動にはほっこりします。

(2021年1月読了)
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★★★

異端の女性民俗学者・蓮丈那智が、助手でワトソン役の三國と共に事件を解決するシリーズ第二弾。

即身仏や大黒天、三種の神器、御蔭講などを題材にした五篇の短編集。

前作ではフィールドワーク先で事件が起きるというパターンでしたが、今回は大学周辺の日常の中での事件が多く、蓮丈先生が怪我したり失踪したり犯人扱いされたりと、バリエーションに富んだ展開が楽しめました。
こんなに頻繁に危険な目に遭う学者なんているのかな、と思うけど、事件に巻き込まれないとお話にならないしね…。
まあ、マンネリにならないように色んなシチュエーションを描いていて、読み手としては飽きません。

今作でも民俗学仮説が現実の事件と絡み合い、学究の考察を進めることによって事件の真相が明らかになったり、その反対もあったりして、巧妙な構成にわくわくしながら読みました。

印象に残ったのは、即身仏と塞の神を描いた表題作の「触身仏」や、神の変遷を描いた「大国闇」。
支配者によって塗り替えられるのは歴史だけではなく神々も変貌させられて…というのが面白いわ~。
古代史の暗黒面もたくさん描かれていて知的好奇心が刺激されます。
「触身仏」のラストは珍しく幻想的に仕上がっていて、自分の好みでした。

「死満瓊」や「御蔭講」も面白かったけど、民俗学的考察や解釈に飛躍がありすぎな気がしてちょっと読みにくかったです。
知識が増えることでまた違った側面が見えることもあるので、単に今のわたしは知識が足りなくて理解できなかったのだと思います。

(2019年7月読了)


★★★★

中性的な美貌を持つ異端の民俗学者、蓮丈那智。
彼女が助手と共に全国各地にフィールドワークに赴くと必ず事件に巻き込まれる…。

五篇の民俗学ミステリ短編集ですが、どの話も大体同じパターン。
民俗学者、蓮丈那智助教授と助手の内藤三國が調査依頼を受け現地で調査を開始すると、必ず何かしらの事件が起きる。
そして、彼女の直感と冷徹な観察力により快刀乱麻に事件を解決するが、諸事情によってその成果を学会に発表できない、というオチまでセットでパターンとなっています。

この作品シリーズの一番の面白さは、民俗学的な歴史の謎と、二人が遭遇する事件の真相がリンクしているところ。
事件の動機やトリックと民俗学的要素が有機的に結びついており、どちらの要素も生かされている練られた状況設定には唸らされます。
二つの要素を持つ小説って、どうしても比重が片方に寄りがち。
一方は面白いけど、もう一方は物語のテーマから乖離している場合もあったりして、バランス良く絡み合ってうまく作用し合うことは難しい気がします。
その点、この作品は二つの要素の融合に成功しており、作者の卓越した手腕に魅了されました。

考えてみれば、ミステリと民俗学はその構造に共通項も多く、かなり親和性の高いジャンルかもしれません。
ある謎に対して想像力を駆使して仮説を立て、それを証明するための根拠を探し、ひたすら検証を繰り返していく。
検証をフィールドワークまたは捜査と言い換えれば、ミステリも民俗学も謎へのアプローチは共通していて、どちらも発想の柔軟さや緻密な考察(推理)が求められます。
常識や先入観、思い込みをとっぱらい、目の前の事実から論理的に導き出された真実のみを抽出するという点では同じ。
異なるのは、民俗学は答えは一つではないが、ミステリはそうじゃないということ。
なんだか掘れば掘るほど奥深そうです…。

また、探偵役となる蓮丈那智の造形が独特すぎて、違和感だらけのキャラ設定に最初は疑問を感じました。
感情の波を全く感じさせないクールな年齢不詳の中性的美女で、アンドロイドみたいで全然感情移入ができない…。
でも、読んでいるうちに探偵がなぜ彼女なのか何となくわかりました。
隠された犯罪であれ、闇に葬られた正史の裏側であれ、真実を白日の下にさらけ出すという過酷な役割を持たせるため、あえて性別や固定観念を超越した、なにものにも囚われない強さを持つ人物造形にしたのかな、と思います。
人間らしさはちょっと情けないキャラの助手の内藤君が担ってくれるので、これもバランス取れてますね。

短編ひとつひとつの巧拙の差は少なからずあるけれど、ダイナミックな民俗学仮説とトリッキーなミステリ要素の双方の醍醐味を味わえる、一級の作品です。

(2019年7月読了)


★★★

京都一の貧乏寺・嵐山の古刹大悲閣の寺男、有馬次郎に奇妙な事件が持ち込まれる。

元広域窃盗犯の有馬の直感は鋭く、新聞の記者の折原けいや住職の助言も得、時には裏社会の情報を利用しながら事件を解決していく。

ミステリーですが、かなりコミカルでユーモアたっぷりの連作短編集。
どの話も京都ならではの文化や料理がキーになっているので興味深いです。

非現実なトリックやロジックを使った脱力してしまいそうになるバカミスの話もあるので、物足りなく思う人もいるかも。
「異教徒の晩餐」や「支那そば館の謎」のトリックはどうなんだろう…私はあまり納得できないな~。

大悲閣は実在するそうなので、いつか行ってみたいです。
素材を生かした季節感のある京料理の描写もおいしそうで、読んでいて唾液が出まくりました。

(2019年3月読了)
親不孝通りラプソディー (講談社文庫) 親不孝通りラプソディー (講談社文庫)
北森 鴻

講談社 2012-01-17

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★★★

「鴨ネギコンビ」のキュータとテッキの高校時代。

羽目を外したキュータは美人局に嵌められ金に窮し〈狂犬〉キョウジと共に信用金庫の裏金を強奪する。
警察の射撃訓練場で拾った弾丸を現場に残し、捜査を撹乱させるが、彼らの計画はいつしか歯車が狂い始めた。
高校生たちのいたずらはヤクザ・警察・脱北者グループをも巻き込んだ大事件へと発展し・・・。

「親不孝ディテクティブ」の続編でありながら、前日譚となっています。

キュータは若いころからお調子者で女好き、テッキのクールな佇まいも変わらず。
二人とも、暴力団と戦ったり、銀行強盗したり、女とすぐに懇ろになったり…こんな高校生いるかよ!と思いつつ、博多弁の軽快なリズムと、緊迫した中でもとぼけたユーモアに縁どられた展開にのめりこむように一気読みでした。

キュータとテッキだけでなく、元警察官の麻生やキュータの面倒を観てきた仙ジイ、テッキの同棲相手など、登場人物が各々の思惑で縦横無尽に動き回って状況が目まぐるしく変わり、展開についていくのが大変でした。
着地点の見えないコンゲームとしては出色の出来で、作者の筆致に思いっきりブン回されるのが快感になってきます。

よく考えるとトンデモ展開が多いんだけども、二人の若いパワーに触れているうちに前向きな気持ちが心に満ちていくような、元気をもらえるお話でした。

(2018年8月読了)
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sis
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読書
自己紹介:
読むのがすごく遅いけど、小さい頃から本を読むのが大好き。

大好きな作家は、ジョン・アーヴィング、筒井康隆、津原泰水、中上健次、桐野夏生、北村薫、金井美恵子、梨木果歩。

コンプリート中なのは宮部みゆき、恩田陸、松尾由美、三浦しをん、桐野夏生、北村薫。今のところ、多分著作は全部読んでいます。
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