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豚がつづる読書ブログ
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★★★★

中性的な美貌を持つ異端の民俗学者、蓮丈那智。
彼女が助手と共に全国各地にフィールドワークに赴くと必ず事件に巻き込まれる…。

五篇の民俗学ミステリ短編集ですが、どの話も大体同じパターン。
民俗学者、蓮丈那智助教授と助手の内藤三國が調査依頼を受け現地で調査を開始すると、必ず何かしらの事件が起きる。
そして、彼女の直感と冷徹な観察力により快刀乱麻に事件を解決するが、諸事情によってその成果を学会に発表できない、というオチまでセットでパターンとなっています。

この作品シリーズの一番の面白さは、民俗学的な歴史の謎と、二人が遭遇する事件の真相がリンクしているところ。
事件の動機やトリックと民俗学的要素が有機的に結びついており、どちらの要素も生かされている練られた状況設定には唸らされます。
二つの要素を持つ小説って、どうしても比重が片方に寄りがち。
一方は面白いけど、もう一方は物語のテーマから乖離している場合もあったりして、バランス良く絡み合ってうまく作用し合うことは難しい気がします。
その点、この作品は二つの要素の融合に成功しており、作者の卓越した手腕に魅了されました。

考えてみれば、ミステリと民俗学はその構造に共通項も多く、かなり親和性の高いジャンルかもしれません。
ある謎に対して想像力を駆使して仮説を立て、それを証明するための根拠を探し、ひたすら検証を繰り返していく。
検証をフィールドワークまたは捜査と言い換えれば、ミステリも民俗学も謎へのアプローチは共通していて、どちらも発想の柔軟さや緻密な考察(推理)が求められます。
常識や先入観、思い込みをとっぱらい、目の前の事実から論理的に導き出された真実のみを抽出するという点では同じ。
異なるのは、民俗学は答えは一つではないが、ミステリはそうじゃないということ。
なんだか掘れば掘るほど奥深そうです…。

また、探偵役となる蓮丈那智の造形が独特すぎて、違和感だらけのキャラ設定に最初は疑問を感じました。
感情の波を全く感じさせないクールな年齢不詳の中性的美女で、アンドロイドみたいで全然感情移入ができない…。
でも、読んでいるうちに探偵がなぜ彼女なのか何となくわかりました。
隠された犯罪であれ、闇に葬られた正史の裏側であれ、真実を白日の下にさらけ出すという過酷な役割を持たせるため、あえて性別や固定観念を超越した、なにものにも囚われない強さを持つ人物造形にしたのかな、と思います。
人間らしさはちょっと情けないキャラの助手の内藤君が担ってくれるので、これもバランス取れてますね。

短編ひとつひとつの巧拙の差は少なからずあるけれど、ダイナミックな民俗学仮説とトリッキーなミステリ要素の双方の醍醐味を味わえる、一級の作品です。

(2019年7月読了)
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読書
自己紹介:
読むのがすごく遅いけど、小さい頃から本を読むのが大好き。

大好きな作家は、ジョン・アーヴィング、筒井康隆、津原泰水、中上健次、桐野夏生、北村薫、金井美恵子、梨木果歩。

コンプリート中なのは宮部みゆき、恩田陸、松尾由美、三浦しをん、桐野夏生、北村薫。今のところ、多分著作は全部読んでいます。
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