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豚がつづる読書ブログ


★★★★

母と娘、姉と妹…人間同士の軋轢が認知の歪みを増大させ、大きな事件を引き起こす。

6篇からなる短編集。

一番印象に残ったのは、表題作の二篇、「ポイズンドーター」と「ホーリーマザー」。
対を成すこの二篇は、前者が「娘」視点、後者が娘の友人が語る「母」の立場から語られています。

異なる視点で語られることにより「真実」がガラリと反転し、物語が立体的に見えてくる…という、ありがちな話なのですが、女性なら誰でも思い当たる醜い感情を引っ張り出してきて、読み手の眼前に突きつけ、執拗に気持ちを抉ってくる作者の手腕には震えます。

母が良かれと思って娘のためにやったことが、娘にとっては独善的で押し付けのように感じたり。
自分の抑圧状態に無自覚な娘もいれば、自分の人生がうまくいかないことを母のせいにして被害者ぶる娘もいたりして。

どちらにもそれなりの正義があり、正しさだけでは測れない人間関係の繊細さ・脆さをはらんでいるように感じます。

こういう話って、読み手の立場や年齢によっても見え方・捉え方は違ってくるので面白いんですよね~。
10代の頃に読んだら、娘の方に肩入れして読んでしまうと思うし。
母親も娘も、どちらも経験した人にとっては、子どもの立場では見えなかった景色が見えてしまうでしょう。

母親は娘を育てるという立場上、圧倒的強者であるのでどうしたって対等ではないんですよね。
しかも、母娘と言えども他人なので100%の相互理解はハナから無理だと思うのですが、「親子だから理解しあえる」と期待した分だけ叶わなかった落胆が大きい。
「家族だから言わなくてもわかるだろう」という言葉の出し惜しみが取り返しもつかないディスコミュニケーションを生むというのは現実にもよくある話で、そのあたりが誰にでも起こりうるリアルとして読み手に容赦なく迫ってきます。

ラストの、「母とか娘とか、くだらないよね!」と、毒親の概念から放たれよう、超えていこうとする理穂の姿勢が好き!

(2020年3月読了)
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母性 (新潮文庫) 母性 (新潮文庫)
湊 かなえ

新潮社 2015-06-26

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★★★

母と娘が過去を回想していく物語。
庭に花が咲く高台の小さな家で親子三人は幸せな日々を送っていた。
しかし、泊まりにきていた母親の母親が土砂崩れで亡くなった時に幸せな暮らしは一瞬にして崩れ去った。
一家は父親の実家に住むことになり、母親にとって地獄のような生活が始まった・・・。

異常なマザコンの母親と、母の愛を渇望しながらも愛されない娘の回想が交互に語られていきます。

最初から不穏な空気が立ち込め、不安定なざらざらとした手触りの物語空間を構築しています。
ゾクゾクしながら読み進めました。

母親は自分の母親にべったり依存し、母がどうしたら喜んでくれるか、自分をほめてくれるか、行動の全てがそれが基準になっています。
母親は娘にも同じ依存関係を強要し、自分の理想像を押し付けてきます。
娘は母に応えようとするが、成長とともに違和感を感じ、母からの無償の愛を得られないことに苦しむようになります。
人は、育てられたのと同じやり方でしか人を愛することができないので、この母親は歪んだ愛を娘に与えることしかできないんですね。

母親と娘が、それぞれ自分の母親の愛を求めるさまは信仰や報われない恋にも似ていて、とても切なくなりました。

生んだだけでは母親になれない。
母性の正体について考えさせられました。
子どもに捧げる無償の愛、自分の命を次世代に繋げていくための愛・・・。
愛するという行為は相手に伝わり心を満たしてこそ完成するものなのかもしれません。

このお話、どう着地させるのか気になって読み進めていくと・・・意外な結末でした。
母娘のわだかまりを解いてくれたのはなんと「時間」なんですよね。
衝撃的な結末などではなく「時間」というのがとてもリアルです。

真実が明らかになるとき、趣向を凝らしたミステリの貌で読者をあっといわせるのがこの著者の常道ですが、今回は曖昧な結末がなんだか物語の切れ味を鈍くしている気がしました。

それにしても、家庭内での父親の存在感の無さ!!・・・怖すぎです。

(2017年1月読了)
白ゆき姫殺人事件 (集英社文庫) 白ゆき姫殺人事件 (集英社文庫)
湊 かなえ

集英社 2014-02-20

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★★★

地方の化粧品会社の美人OL・三木典子が、惨殺され黒焦げ死体となって発見された。
同時期、典子と同期の城野美姫が母親が危篤だと嘘をつき失踪。
典子の後輩から週刊誌ライターの赤星は情報提供を受け、関係者への取材を進めていくが・・・。

関係者たちのそれぞれの視点によって、事件や容疑者の城野美姫の人間性が浮かび上がっていくという芥川の「藪の中」式ストーリー。

話自体はありがちで目新しさが無いのですが、週刊誌のゴシップを読んでいるかのように下世話なのぞき趣味的に楽しんで読みました。

謎の真相や動機もショボく「偶然の要素に頼りすぎでは?」とツッコみたくなるのですが、この物語のキモはそこにはありません。

本来なら多面的でいろんな面を持つはずの人間が、ひとたび容疑者扱いになると、周囲の人間の悪意によって単一的な見方で捉えられ、マスコミやネットの匿名によって圧倒的な速さで伝播していく現代的な怖さを、この作品は教えてくれます。

ライターが誘導尋問したり強引に煽ったりして関係者達を取材していくのですが、そこで語られる城野美姫の姿は関係者たちによって無責任に作り上げられた「虚像」なんですね。

事件とは関係のないエピソードも事件と関連付けてマスコミやネットによって拡散し、情報だけが独り歩きしていく。
その様子がかなりリアルで、本当に取材を受けたら自分も面白おかしく言っちゃうかも…と思ってしまいました。

いつものように、人間不信になりそうなイヤミスでした。。

(2016年7月読了)
サファイア サファイア
湊 かなえ

角川春樹事務所 2012-04-15
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★★

宝石にまつわる話を集めた短編集。

どの話にも説得力が感じられず、ワキの甘い印象が残りました。
さらっと読めるけれど、底の浅い感じ。

作者お得意の、人の暗黒面に踏み込んだ描写も無いので物足りないし、かといってハートフルな話の物語の深みも無く、嘘くさい。

良くも悪くも「告白」の印象が強くて今まで著作を読んできたけど…もう読まないかな。
これ以上、作者の引き出しには奥行きが無いみたいです…。

(2012年10月読了)

境遇 境遇
湊 かなえ

双葉社 2011-10-05
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★★

絵本作家として一躍注目を浴びる陽子と新聞記者の晴美は、恵まれない過去を持つ親友同士。
ある日、陽子の息子が誘拐され、脅迫状が届くが―。

毎度、登場人物たちの悪意をあぶり出す手腕が見事な作家さんですが…今回は、ちょっとガッカリな出来でした。

掘り下げられていない薄っぺらな人物描写に、ありきたりで先の読める展開。
ミステリ部分もお粗末なら、肝心の物語部分もご都合主義満載。

あまりに内容の薄さに、ほんとに湊かなえさんが書いたのかなあと疑ってしまいました。

(2012年4月読了)
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sis
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趣味:
読書
自己紹介:
読むのがすごく遅いけど、小さい頃から本を読むのが大好き。

大好きな作家は、ジョン・アーヴィング、筒井康隆、津原泰水、中上健次、桐野夏生、北村薫、金井美恵子、梨木果歩。

コンプリート中なのは宮部みゆき、恩田陸、松尾由美、三浦しをん、桐野夏生、北村薫。今のところ、多分著作は全部読んでいます。
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