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豚がつづる読書ブログ
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狐罠 (講談社文庫) 狐罠 (講談社文庫)
北森 鴻

講談社 2000-05-12

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★★★

骨董商の「旗師」宇佐見陶子は、同業者の橘薫堂(きくんどう)の主人・橘から贋作のガラス器をつかまされる。
プライドを傷つけられた彼女は報復を決意するが、目利きの橘の目をごまかすことは容易ではない。
そこで彼女は、別れた夫のつてを頼り、贋作の天才・潮見老人に協力を求める。
一方、橘薫堂に勤める女性が殺され、陶子も殺人事件に巻き込まれてしまう。

骨董の世界を舞台にした、古美術ミステリ。
骨董業界という特殊な業界の事情をわかりやすく描いているのでとても読みやすかったです。

贋作をつかまされるのは見る目が無いから、つまり騙される方が悪いという非情なルールがまかりとおる業界。
そんな素人の想像を絶する古美術業界を舞台に、人の飽くなき欲望や駆け引きが描かれ、読み手はどんどん作品世界に引き込まれ、読み始めたら止まらないジェットコースターストーリーとなっています。

陶子がどのようにして復讐を果たすのか、殺人事件の捜査が陶子にどのように絡んでいくのか、一筋縄ではいかぬ手に汗握る展開や途切れのない緊張感に最後まで気が抜けません。

刑事のでこぼこコンビのしたたかさとか、潮見老人の不気味で迫力のあるキャラクターとか、脇を固める登場人物も個性豊かで魅力的でした。

ただ、最初の導入部分はちょっとわかりづらかったです。
まず主人公の陶子が橘に贋作をつかまされ、保険会社の調査員によって騙されたことに気づいた彼女は、その恨みを晴らすべく、復讐(目利き殺し)を決意する・・・という流れになっているのですが、彼女の心情が説明されないので、なぜリスクを冒してまで復讐を決意するのかが読み手には伝わらない。
一筋縄ではいかない世界で一人で仕事をする女性が並々ならぬ気概を持っていて、そのプロ意識の高さゆえに復讐をするのかな?とも思うのですが、贋作作りに手を染めるというのは、明らかに「犯罪者側」に行ってしまうことなので一度そうなったら絶対に元の立ち位置には戻れないし、職を失う可能性もある。
序盤の展開が早すぎて事情がのみこめず、陶子にも共感できないので読者が置いてかれる気がしました。

お話自体は面白かったので続編も読んでみたいです。

(2018年6月読了)
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メイン・ディッシュ (集英社文庫) メイン・ディッシュ (集英社文庫)
北森 鴻

集英社 2002-03-01

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★★★

ある雪の日、劇団女優のユリエはミケさんという男と出会い、一緒に暮らし始めた。
プロ顔負けの料理の腕を持っているミケさんは、劇団が遭遇する事件も見事に解決に導いていく。
しかし、過去を明かさない彼には誰にも言えない秘密があった。
ミケさんこと三津池修とは何者なのか――。

連作短編集ですが、二つのストーリーが交互に語られるうちに中盤で絡み合い、一つの本流の謎へとつながっていく…その展開にもまた二重三重の仕掛けが施され、最後まで気を抜けませんでした。

登場人物たちも、みんな魅力的でした。
おいしそうな料理を作りながら飄々と推理をしてみせるミケさんの佇まいも素敵。
サバサバした性格のユリエも好感が持てました。
男性作家が描く女性はステレオタイプが多いので違和感を感じるのですが、ユリエの人物像はリアルで親しみがもてます。
劇団の座付き作家の小杉も、いい味出してましたねー。
毎回、的外れの推理を披露するピエロの役割を担っているのですが、愛嬌があって何か憎めない。
核心を突いた推理をするかと思ったらいきなり突飛な方向にいっちゃって大きくはずしたりとか。
彼が一番魅力的かもしれない。
梁山泊のような劇団のわちゃわちゃした雰囲気も良いし、いつまでも読んでいたい、終わりが来るのが寂しいと思わせてくれました。

ただ、長編としては構成も凝っているしストーリーのメリハリもあって面白く感じるのですが、各短編の謎解きには首を傾げてしまうものもありました。
辻褄合わせというか、説得力に欠ける無理矢理な推理もあって、「有り無しでいえば無しかな・・・」って感じ。
そこが少し残念です。

(2018年5月読了)
親不孝通りディテクティブ (講談社文庫) 親不孝通りディテクティブ (講談社文庫)
北森 鴻

講談社 2006-08-12

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★★★

博多・中州の屋台を営むテッキと結婚相談所の調査員キュータが、2人に持ちこまれる事件を解決していく連作短編集。


高校時代からの腐れ縁であるテッキとキュータが謎を解決していくのですが、2人の性格が好対照でとてもいい味を出しています。
冷静沈着で頭脳派のテッキと感情で突っ走るタイプの憎めないキュータは一見デコボココンビですが、それぞれが足りない部分を補完しているような、お互い欠かせない関係性が魅力的です。

後味のよろしくない苦みの強い事件も多いですが、2人のテンポの良い会話で軽い読み心地となっています。

たいてい事件の背景にはヤクザが絡んでいて、しかもキュータが突っ走って事件を複雑化させてしまうという展開が多く、話が定型で単調な感じもしました。
謎解きにも奥深さはあまり無いので、人間の裏側を事件にからませたような屋台ならではの切ない話をもっと読みたかったです。

続編がありそうなラストでしたが、作者は亡くなられているので書かれていないんですよね。残念。

(2018年3月読了)
螢坂 (講談社文庫) 螢坂 (講談社文庫)
北森 鴻

講談社 2007-09-14

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★★★★

三軒茶屋の裏路地にあるビアバー「香菜里屋」シリーズ第三弾。


前作同様、陰影が深く、余韻が残るお話が多かったです。
真実に気付いたマスターが謎解きをする際、言い淀む場面も多かった気がします。

表題作の「螢坂」は、やはり一番完成度が高い佳作。
16年ぶりに三軒茶屋を訪れた有坂は、昔の恋人・奈津美と歩いた道を辿るうちに「香菜理屋」に着く。
そこで有坂は彼女の秘められた思いを知る事に…。

捨て去った過去と対峙した時、初めて残酷で悲しい真実を知る。
有坂が罪を贖い続けることでいつまでも奈津美は彼の心に存在し続けるのでしょう。
有坂や奈津美の心中を思うと、想像を絶する真実の重みに自分なら耐えきれないかも…。
でも、踏み込まないけど離れない位置で見守ってくれるマスターの態度がとても温かく、安心して本を閉じることができました。

ベタだけど「孤拳」もすごく良かったです。
「孤拳」という幻の焼酎を捜し求めていた谷崎真澄。
彼女の話を聞いたマスターは、悲しくも切ない真相を語る…。

このお話にも「螢坂」同様、相手に対して自分のことを忘れてほしくない人の気持ちが描かれています。
死を悲しんでほしくはないけれど、自分のことを忘れてほしくない・・・そんな相反する人の複雑な感情を明らかにしてみせ、傷つけずに生者に伝えるマスターの手腕が秀逸。
ありきたりだけど、忘れない限り心ではいつも一緒なんですよね。

「香菜里屋」のカウンターに座るだけで抱えている心の澱が解きほぐされていく…こんなお店現実にあったらいいのにな~。

どのお話でも平凡な人生の悲喜こもごもが味わえました。
若いころに読んだらこの作品の良さは存分に味わえなかったと思うと、そういう意味では大人になって良かったな~!と思います。

(2018年1月読了)
桜宵 (講談社文庫) 桜宵 (講談社文庫)
北森 鴻

講談社 2006-04-14

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★★★★

三軒茶屋の裏路地にあるビアバー「香菜里屋」シリーズ第二弾。


前作にも増してマスターの作る創作料理がとてもおいしそうで、読んでいて舌鼓を打ちました。
料理の音や匂いまでも精緻に再現されていて、五官をフルに刺激する表現力が素晴らしい。
おなかがすいているときに読むもんじゃないですね~。

連作短編集なのですが、前作よりも舌に残る苦さが印象的なお話ばかり。
人間の嫌な部分を凝縮して見せつけられるので、読み進めるたびに胃もたれしていく気がしました。

読みやすいのでさらさらと読んでいけるのですが、じわじわ露わになる人の悪意には恐怖をおぼえるほど。
人と人との関係の中での容赦のないすれ違いが凄まじく、心を抉られました。

表題作の「桜宵」も一見いい話ふうではありますが、よく考えると死者の置き土産はとんでもなく重く、その後の展開は推して知るべし、という感じです。

(ラストに到着するのが目的なのかと思われる)ラストありきの強引な推理もあり、その辺がちょっとマイナス。
でも人の心の機微を描かせたら一流だと思うし、推理以外の魅力もあるので読みごたえがありました。

(2018年1月読了)
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プロフィール
HN:
sis
性別:
非公開
趣味:
読書
自己紹介:
読むのがすごく遅いけど、小さい頃から本を読むのが大好き。

大好きな作家は、ジョン・アーヴィング、筒井康隆、津原泰水、中上健次、桐野夏生、北村薫、金井美恵子、梨木果歩。

コンプリート中なのは宮部みゆき、恩田陸、松尾由美、三浦しをん、桐野夏生、北村薫。今のところ、多分著作は全部読んでいます。
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