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豚がつづる読書ブログ
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★★★

尾張藩の若き藩士・榊原小四郎は利発で学問にも優れ、出世をめざし職務に励んできた。

しかし、才気をひけらかした態度が災いし上司に疎まれ、国もとの御松茸同心に左遷されてしまう。
悄然として国に移る小四郎だったが、慣れない山歩き仕事に右往左往するばかり。
果たして、小四郎の出世の夢はかなうのか。

面白かったです。
現代日本にも通じるお話なので、身近に感じられました。
小四郎は生まれてこの方ずっと不況しか知らないのですが、周囲のオッサン達はかつて尾張に訪れたバブルが忘れられず、その話ばかり。
私の周りにもこういうオッサンはまだいます笑。

松茸の不作続きの要因を調べ収穫量を上げるというお仕事を拝命したわけですが、小四郎は現実に叩きのめされます。
松茸献上のノルマが毎年課されているが、山の松茸では到底足りないので御用商人から買い上げて補填しているという矛盾。
財政赤字は増える一方なのに、何もできない自分。
融通の利かないカタブツの小四郎は、山廻同心には邪険にされ、立場の違う村の平民にも松茸についてうまく聞き出せず、誰の助力も得られない。
しかも都会育ちの彼は虫も大嫌いで山仕事なんかしたこともない。

可哀想になるほど八方ふさがりの状態ですが、小四郎はかすかな出世の道をあきらめず、増産を目指しこつこつと資料を読み試行錯誤していきます。
最初は鼻持ちならない青臭い青年だった小四郎は、苦労を重ね、やがて周囲の助けを得て視野を広げていくのです。
その様子は現代の青年の成長を描いたお仕事小説を読んでいるようで、すがすがしい気持ちになれました。

納得のいかない仕事に異動になっても、腐らずに目の前の仕事に励むことって大事ですよね。
骨身に沁みる教訓だと思います。

先代宗春公や父親に対しての気持ちが変化していくのもほっとさせられました。
結構堅い話ですが、ユーモアにまぶされて読みやすいので時代物が苦手な方でも楽しめると思います。

(2019年1月読了)
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★★★

映画作家を志す女子大生の真矢(まや)は就職を避けて大学院進学を決めるが、親からは仕送りを絶たれしまう。
生活費捻出のため、布目准教授のフィールドワークのバイトで遠野へ行き座敷わらしを撮影することになったが―。
変わり者の大学教授と女子大生のコンビによる妖怪調査旅行を描いた連作短編集。

妖怪のフィールドワークのお話ですがホラーな要素はあまり無いので怖いのが苦手な方も大丈夫。
のどかな雰囲気の中、主人公コンビの会話もテンポ良く、さくさく読めました。

最初はコミカルな妖怪探しの話かと思ったのですが、案外きちんとした民俗学的なアプローチによる調査をしていて興味深かったです。
座敷わらしや河童、天狗の伝承話の成り立ちについて文化的・歴史的背景を踏まえた布目教授の考察が披露されるので勉強になりました。

3話しかないのですぐに読み終わってしまい、不完全燃焼でした。
まだまだ日本には(世界中にも)妖怪はたくさんいるんだから、続編も作れそうです。

(2018年10月読了)
キミは知らない (幻冬舎文庫) キミは知らない (幻冬舎文庫)
大崎 梢

幻冬舎 2014-04-10

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★★★

亡父の書いた本がきっかけで仲良くなった非常勤講師・津田の突然の退職にとまどう高二の悠奈。
ふとしたことから津田の住所を知った悠奈は、遠方にある津田の自宅を一人で訪ねていく。
ところが悠奈は突然拉致され、自分の出自を巡る騒動に巻き込まれることに。
しかも12年前に事故死した父親も関係していることがわかり・・・。

普通の女の子が、突然ドラマチックな騒動に巻き込まれるジェットコースターストーリー。
誰が敵なのか、誰を信じていいのかわからない、二転三転する物語にひきつけられます。

次から次へと謎が出てきて、孤立して逃走し挙句の果てには殺されそうになり・・・ハラハラしながら読みました。

「地位も名誉も財産も、ほしかったら自分で手に入れればいい。いつだって、一から始めてやるよ」というある人物のセリフに、このお話の言いたいことが全てつまっています。

古い因習に捕らわれず、ちゃんと普通の日常に戻ることのできた主人公の清々しさが眩しいお話でした。

(2017年1月読了)
先生のお庭番 (徳間文庫) 先生のお庭番 (徳間文庫)
朝井 まかて

徳間書店 2014-06-06

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★★★


修行中の庭師・熊吉は、長崎の出島への奉公を命じられ、シーボルトの元で薬草園の園丁を勤めることになる。
初めての仕事にとまどう熊吉だったが、工夫を重ねて見事な薬草園を仕上げていく。
シーボルトや愛妾のお滝、黒人の使用人おるそんの信頼を得、熊吉は幸福な日々を送っていたが、シーボルトの帰国が決まってからその日常は少しずつ陰りを見せ始めた・・・。

シーボルトを題材にした小説は数多くありますが、このお話は15歳の園丁の視点から描かれています。
使用人の目から見るシーボルトと歴史的事件というものを生き生きと描いており、とても新鮮でした。

圧巻なのは、美しい自然の情景を写し取った芳醇な描写。

最初は共通点の無さそうなシーボルトと熊吉が、自然の美しさを通して気持ちを通じ合わせるのも素敵。
日本の植物の美しさを愛で、それを世界に伝えようとするシーボルトと、その思いに報いようと努力する熊吉には希望を感じさせてくれました。
同時に二人にはお互い理解のできない、越えられない壁があることもわかってくるのが切ないです。
日本人にとって自然は共生するものであるけども、欧米人のシーボルトにとっては自然はねじ伏せ、支配する対象であるという自然観の齟齬が悩ましい。
そこらへんの描写がとてもうまくて、印象的でした。
両者のズレとか溝が広がり、シーボルト事件につながっていくという流れがなめらかでした。

終盤の、シーボルトの娘の以祢と熊吉の邂逅は忘れがたいものがありました。
暖かい気持ちでページを閉じることができたのでほっとしました。

(2016年5月読了)
聴き屋の芸術学部祭 (創元推理文庫) 聴き屋の芸術学部祭 (創元推理文庫)
市井 豊

東京創元社 2014-12-22

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★★★

生まれながらの聴き屋体質の大学生・柏木が遭遇した四つの難事件。
誰よりもネガティブな性格の先輩、推理マニアの美男子学生作家など、文芸サークル第三部〈ザ・フール〉の愉快な部員たちが謎解きを繰り広げるユーモア・ミステリ。

「放課後探偵団」というミステリアンソロジーに載っていた聴き屋の短編が面白かったので読んでみました。
期待を裏切らず、この短編集も面白かったので満足です。

聴き屋という設定がまず面白いし、文芸サークルなどの大学の面々との会話も愉快。
日常の謎だけではなく殺人事件も出てくるけど、何気ない手がかりを元に真実があぶり出され、論理的思考によって解決が導き出されるカタルシスがたまらない。
読者に公平な証拠を提示してくれるので主人公と一緒に推理しながら読んでいくのも楽しい。

次回作もあるようなので、そのうち読んでみたいと思います。

(2016年5月読了)
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プロフィール
HN:
sis
性別:
非公開
趣味:
読書
自己紹介:
読むのがすごく遅いけど、小さい頃から本を読むのが大好き。

大好きな作家は、ジョン・アーヴィング、筒井康隆、津原泰水、中上健次、桐野夏生、北村薫、金井美恵子、梨木果歩。

コンプリート中なのは宮部みゆき、恩田陸、松尾由美、三浦しをん、桐野夏生、北村薫。今のところ、多分著作は全部読んでいます。
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