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豚がつづる読書ブログ
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スクラップ・アンド・ビルド スクラップ・アンド・ビルド
羽田 圭介

文藝春秋 2015-08-07

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★★★

再就職活動中の健斗は介護の必要な祖父と同居中。
「早く死にたい」と愚痴る祖父の意思を尊重するため、健斗は介護を積極的にやり早く弱らせようとするが・・・。

よくテレビで見かける羽田圭介さんの姿が脳裏にチラついて、なかなか集中して読み進められなかったのですが笑、面白かったです。
作品全体を覆うブラックユーモアあふれる文章に苦笑いしながら楽しんで読みました。

主人公は弱者である祖父に対し、強者であろうとするために肉体改造をしたりナニをしたりするのですが、終盤では強者と弱者の境界線がどんどん曖昧になってきて、その皮肉さにニヤニヤしちゃいました。
健斗は支えの必要な祖父を弱者という枠に押し込めて、自分が優位に立ちたかっただけなんですよね。
若い肉体を持ち未来のある傲慢な若者がその矛盾に気づいたとき、タイトルの「スクラップ・アンド・ビルド」の意味するものが読み手にも伝わってきます。

実際介護をされている方には全く役立たないと思いますが、読み応えがありました。


(2016年1月読了)
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オーブランの少女 (創元推理文庫) オーブランの少女 (創元推理文庫)
深緑 野分

東京創元社 2016-03-22

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★★★

美しき庭園に隠されたもうひとつの庭の物語、醜い姉と美貌の妹を巡るヴィクトリア朝ロンドンの犯罪譚、寂れた食堂の亭主を翻弄する過去の思い出…。
異なる場所、異なる時代を舞台に描く、少女たちをモチーフとしたミステリ短編集。

表題作の「オーブランの少女」に、まず驚かされました。
最初に色とりどりの花が咲く美しい庭園が活写され、その後不穏な殺人劇が繰り広げられるのですが、その対比が鮮烈な印象を残してくれるのです。
情景が目に浮かんでくるような物語世界の構築力・リーダビリティは新人離れしていて、瞠目しました。

割と好きなのは「片想い」。
これは日本の戦前の女学校が舞台になっていて、いわゆる「エス」が出てくるのでわたし好みでした~。
制限の多い時代の女性の細やかな心の動きが活写されていて、頬がゆるみました。
前向きなラストの読後感が良かったです。

どの短編にも現れる、強靭さと脆さが危ういバランスで同居している、そんな季節を過ごしている<少女>たち。

平気で残酷なことをする同じ心で、愛するものに惜しみない愛情を与えることのできる彼女たちは、いつか自身が変容し、大人になった時に初めて通り過ぎた季節を思い返すのでしょう。

彼女たちの息づかいを間近で聞いているかのように、もどかしさや切なさが伝わってきて、素敵な緊張感を味わうことができました。

(2016年6月読了)
退出ゲーム (角川文庫) 退出ゲーム (角川文庫)
初野 晴

角川書店 2010-07-24

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★★★★★5つ!

高校一年生のチカとハルタは、弱小吹奏楽部でフルートとホルンを担当している幼馴染。
二人は廃部の危機を救うため練習と部員集めに奔走する日々を送っているが、それゆえに時々学校で起こる出来事の謎を解くはめに。そんな二人の活躍を描いた連作短編集。

すごく良かった!
学園ミステリの体裁を取りながら意外にも社会派要素を含んだ謎もあり、ハードテイストな印象。
変人たちの集まる文系部活の面々がコミカルに話を進めていくのですが、謎はきっちりと論理で解決します。

ミステリがメインですが、青春群像劇、恋愛物語などの面を持った物語でもあり、それらがお互いを損なうことなく自然に融合しているのが素晴らしい。

それぞれがちゃんと必要不可欠な要素として物語に絡み、自然にストーリーが流れていくというのは中々稀有なことだと思います。

4つの短編で一番印象に残ったのは、表題作の「退出ゲーム」。
中国系アメリカ人の生徒・マレンの入部を巡って吹奏楽部と演劇部が「退出ゲーム」という即興劇を演じるお話。
この話の凄いところって、相手側のアドリブによって芝居の中で追加されていくルールをロジックの枷にしているところ。
制約された状況下でどんどん解決のハードルを上げていくわけですから、解決に至った時のカタルシスが半端ないんですよね。

しかも、芝居の結果にハラハラするとともに、劇を通して複雑な家庭で育ったマレンの心を解きほぐしていく、という・・・。
鮮やかなラストは忘れがたい印象を植え付けてくれました。

最後のお話「エレファント・ブレス」もとても良かったです。
変人兄弟が発明した、見たい夢が見られるという『オモイデマクラ』の校内での販売を阻止するためにチカとハルタが協力し・・・というアホらしい冒頭からは想像もつかない結末。

前半のアホらしさがある分、後半の現実のシビアな部分が際立って感じられるのかもしれません。

ユーモラスな外装に包まれた苦い味わいがたまらない、癖になりそうな話ばかりでした。

(2016年5月読了)
流
東山 彰良

講談社 2015-05-13

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★★★

1970~80年代の台湾を舞台とした王道の青春小説。
無鉄砲な17歳の少年葉秋生が、祖父の謎の死、大学受験や兵役従事、甘酸っぱい恋などを通して大人へと成長していく物語。

舞台設定、人物造形、構成力、どれも兼ね備えた申し分のない作品です。
祖父の死の謎はスパイス程度で、中国の国民党と共産党の確執という背景の中、外省人の一家に生きる主人公の青春グラフィティがメインストーリーとなっています。

台湾の歴史については不勉強ゆえ何も知らなかったのですが、主人公の祖父の過去にはいろいろ考えさせられました。
生きのびるためには殺すしかなかった者たちの憎悪と贖罪、そこに日本人が関わっているという現実。
世界には知らなくてはならないことがいっぱいあるなあ…。

豪放磊落な祖父やその友人たち、小悪党の胖子や幼馴染の小戦など、男も女も魅力あふれる登場人物が多く、大陸の濃い絆に熱いものを感じました。
くさくなりそうなギリギリのところで安きに流れず、滋味あふれる詩情が底辺に流れているのがとても良かったです。

(2015年12月読了)
幸福な生活 (祥伝社文庫) 幸福な生活 (祥伝社文庫)
百田 尚樹

祥伝社 2013-12-12

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★★

ブラックユーモアに満ちたショートショート。

最後のページをめくると、一行のみのオチが待っている。
ほとんどの話はありきたりなオチばかりで、予想を上回るびっくりするような話はなかったので残念。

もうちょっと手の込んだ話が読みたかったけど、息抜きに読むにはぴったりだと思いました。

(2015年12月読了)
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プロフィール
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sis
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非公開
趣味:
読書
自己紹介:
読むのがすごく遅いけど、小さい頃から本を読むのが大好き。

大好きな作家は、ジョン・アーヴィング、筒井康隆、津原泰水、中上健次、桐野夏生、北村薫、金井美恵子、梨木果歩。

コンプリート中なのは宮部みゆき、恩田陸、松尾由美、三浦しをん、桐野夏生、北村薫。今のところ、多分著作は全部読んでいます。
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