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豚がつづる読書ブログ
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真実の10メートル手前 真実の10メートル手前
米澤 穂信

東京創元社 2015-12-25

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★★★★

フリージャーナリストの太刀洗万智が取材の中で出会った謎を解いていくミステリ短編集。
「真実の10メートル手前」「正義漢」「恋累心中」「名を刻む死」「ナイフを失われた思い出の中に」「綱渡りの成功例」の6編を収録。

『さよなら妖精』『王とサーカス』に続く〈ベルーフ〉シリーズ第3作目。
作中には〈ベルーフ〉という言葉が出てこないので、何だろう?と思い検索したところ、「天職」という意味だそうで。
太刀洗が「真実」と「多くの人に伝えるべき事実」のはざまで葛藤しながらもジャーナリストを「天命」として活動していく、という意味でつけられたシリーズ名なのでしょうか。

基本的に独立したストーリーなのでシリーズの前2作を読んでいなくても楽しめる内容となっていますが、1作目の『さよなら妖精』だけは読んだほうがいいと思います。
太刀洗がどうして記者を職業に選んだのか、彼女の立脚点を知ることができるし、記者として悩む彼女の胸底には必ず10代の頃の苦い思い出が関わっているからです。

どの短編も良かったのですが、「名を刻む死」と「ナイフを失われた思い出の中に」が印象に残りました。

「名を刻む死」では、自分では努力してもどうしようもない事に直面した時に人は忘れるか、自分を苛み続けるか、選択を迫られます。
どちらも選べない場合は、自分に都合のいいストーリーとして受け取るしかない、と言った太刀洗の諦観は同時に生き抜くための強さや知恵でもある…と思いました。

そして、「ナイフを失われた思い出の中に」。
これは『さよなら妖精』のヒロイン・マーヤの兄が訪ねてくる話で、感慨深かかったです。

ジャーナリズムの役割についてマーヤの兄と太刀洗は議論するのですが、難しくて非常に繊細な話なので、理解できない部分もありました。
紛争地で育ったマーヤの兄にとって記者は「あらかじめ結論を用意して報道する」人たちなんですね。
それに対して太刀洗は、「誰も傷つけないために」マスコミとして世に知らしめる「事実」は加工されなくてはならない…という考えを持っています。
ジャーナリズムって何だろう、と素朴に考えました。
難しいですね。

記者として「真実」へ食らいつく太刀洗の危うい姿勢は淡々としていますが、凄まじいものを感じます。
「真実」を明らかにすることでの痛みを真っ向から引き受ける覚悟を決めた彼女の生き方は、ハードボイルドで好感が持てます。

ただ、終始落ち着いたクールなトーンで描かれていくので、間欠的に笑いやウィットに富んだ会話が欲しくなります!
太刀洗のシリアスなスタンスも素晴らしいのですが、扱うテーマが重いので笑いがほしいんですよね…。

(2017年3月読了)
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趣味:
読書
自己紹介:
読むのがすごく遅いけど、小さい頃から本を読むのが大好き。

大好きな作家は、ジョン・アーヴィング、筒井康隆、津原泰水、中上健次、桐野夏生、北村薫、金井美恵子、梨木果歩。

コンプリート中なのは宮部みゆき、恩田陸、松尾由美、三浦しをん、桐野夏生、北村薫。今のところ、多分著作は全部読んでいます。
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