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豚がつづる読書ブログ
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★★★

作者のデビュー作「静かな雨」と、「日をつなぐ」の二編が収録されている作品集。


「静かな雨」は、諦めを知り、苦い時間を過ごす術を知っている人たちのお話。
クリスマスの日に失業した行助(ユキスケ)は、偶然見つけたたいやき屋の店主のこのみと知り合う。
彼女が作るたいやきはとても美味しく、行助は店に通うようになり、このみと徐々に親しくなる。
しかしこのみは交通事故に遭い、記憶を一日しか留められないという障害を負ってしまう。

静謐でゆったりとした物語の中で世界の豊かさを描き出すことができる宮下さんの手腕は、デビュー作から発揮されています。

行助は生まれつき足に麻痺があり、こよみは「瞳に秋の夜みたいな色と、あきらめの色がある」「あきらめるのってとても大事なことだと思う」と言います。

行助は彼女の強さに惹かれていきますが、事故の後は二人の関係も変化していきます。
日々の暮らしの記憶を共有できないことにストレスを感じながらも、やがてはそれを受け入れていく行助。
二人に奇跡は起きないが、諦めの中でも生きていける。
そんな強さが、読み手の心を静かに打つのです。

短編「日をつなぐ」。
中学時代の恋人と結婚し、誰も知り合いのいない町で子育てをする女性のお話。

夫は仕事で忙しく、一人きりで育児に格闘するワンオペ状態の母親の孤独感や不自由さが、自分が体験したかのように伝わってきます。
逃げ場のない、ゴールの見えない育児環境の中でまともな思考もできない状況に追い詰められていく主人公。
彼女の疲弊感が増していく様子が、豆を煮る描写をたびたび挿入することで表現されているのがうまい。

夫と向き合おうとするところで話は終わるのですが、今後夫婦の関係がどうなろうとも、向き合おうと努力する主人公の姿勢は偉いと思う。

小説の主人公や題材にしにくい話を奥行きのある、繊細な物語に仕上げている筆さばきには安心感があります。
やっぱり、最初から宮下奈都さんは宮下奈都さんなのだなー。

(2019年11月読了)
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★★★

福井在住だった宮下一家は、夫の強い希望から北海道に期間限定の山村留学をすることに。
移住先は大雪山国立公園の中にあるトムラウシという集落。
虫や寒さに悩まされながらも、大自然の素晴らしさや地元の人との温かな交流を描いた、作者の移住体験記風エッセイ。

いやー、すごいです。
何がすごいって、宮下一家のフットワークの軽さ。
アクティブすぎます。

何しろ、移住した先は大自然に囲まれた寒さの厳しい過疎地域。
携帯は圏外、スーパーまで37キロ、子どもの通う学校は小中合わせて生徒は僅か10人。
その上長男は受験生だし、宮下さんの夫も北海道で職探し(移住のために福井での仕事を辞めたみたい)。
自分だったら考えられないかも…。
その逞しさには、憧れを通り越して畏敬の念さえ抱いちゃいました。

美しい景色と穏やかで楽しい暮らしが生き生きと語られていくのでどんどん読み進められます。
数の多いやたらと楽しげな学校行事や地域行事、濃密なご近所づきあい、子どもたちのオモシロ発言や珍事件など、クスっと笑えるエピソードばかり。
もちろん、描かれないその裏には初めての土地での苦労があり、楽しいことばかりではないと思います。
でも、宮下一家の面々は問題についても深刻になりすぎず、リスクを恐れずに目の前の興味あることに対して貪欲に、全力で楽しんでいきます。
日常を大切に愛おしみ、光に顔を向けてゆく家族のまっとうな姿は下手な小説を読むより面白かったです。

世間や常識に囚われて曇っていた目を覚ましてくれたエッセイでした。

(2019年10月読了)
はじめからその話をすればよかった (実業之日本社文庫) はじめからその話をすればよかった (実業之日本社文庫)
宮下 奈都

実業之日本社 2016-04-28

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★★★★

宮下奈都さんの初エッセイ集。

宮下奈都さんのエッセイは初めて読んだのですが、宮下さんって、小説作品数の割にはエッセイ集を多く上梓されている気がします(確か、今のところ4冊も出してる)。

その真摯で心地よい温度の小説をどのような方が書いているのだろうと思う読者が多いからではないか・・・と勝手に考えたのですが、そんなわたしの予想を裏切らず、優しくてほのぼのとした世界観が垣間見られるエッセイでした。

家族と小説を愛し、穏やかな日常をいとおしむ姿勢が素晴らしい。
こんな、ささいな日々の何でもないことから抽出した言葉が積み重なって小説となり、読み手に新しい視座を得るという体験を味わわせてくれるんだなあ…。

読んでいるとなんだか目頭があつくなってくる。
またいつか読み返したい。

(2018年8月読了)
ふたつのしるし (幻冬舎文庫) ふたつのしるし (幻冬舎文庫)
宮下 奈都

幻冬舎 2017-04-11

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★★★

周囲から浮かないように、過剰に空気を読み居心地の悪い中学校生活を送る遥名。

逆に、空気を全く読まず、興味のあることに夢中になると周りが一切見えなくなり、落ちこぼれてしまった少年ハル。
そんな二人のハルが出会うまでの、それぞれの成長や足取りを交互に描いた連作風長編小説。

二人のハルの肩先から見える世界は息苦しい。
特に少年ハルは発達障害というのか、学校の集団生活に全く馴染めず、読んでいていたたまれない気持ちになりました。
遥名もうまく学校で立ちまわるものの、不器用すぎて生きづらさを抱えている様子は自分の10代の頃を思い出して切なくなります。

終盤、紆余曲折あった二人が運命的に出会うシーンでは、世界を肯定する強い力がみなぎっており、圧倒的な多幸感を感じさせてくれます。

いろんな幸せの形について描かれており、考えさせられました。
幸福とは何か、他人から見たら不幸であっても誰がそれを幸せではないと決められるのか。
幸福を測る物差しは人それぞれ、そんな思いにさせてくれる滋昧に満ちたお話でした。

(2018年8月読了)
([し]4-5)つむじダブル (ポプラ文庫) ([し]4-5)つむじダブル (ポプラ文庫)
小路 幸也 宮下 奈都

ポプラ社 2015-02-05

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★★★

バンドを組んでいる高二の由一と柔道に夢中な小四のまどか兄妹を描く、小宮家の物語。
由一のパートを小路さんが、まどかのパートを宮下さんがそれぞれ執筆。
穏やかな小宮家の日常は、ある日「芦田伸子」と名乗る女性から電話がかかってきたことで様子がおかしくなり.....。

誰しもが直面したことのある普遍的な親子の愛情や葛藤が丁寧に描かれ、むずかゆい気持ちになりました。

特に、宮下さんが描く小四のまどかの心理描写がすごく良かったです。
子どもではなく(と本人は思っている)大人でもない、思春期の入口に立っている微妙な年齢の彼女。
家族の気持ちの揺れを敏感に察知して不安になるものの、何が起こっているのかまだはっきりとは予想できないんですね。
よるべない少女の頃の気持ちを追体験させてくれました。 

予定調和ではあるものの、いつまでも読み終えたくないという魅力を持った滋昧あふれるお話でした。

(2015年11月読了)
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プロフィール
HN:
sis
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非公開
趣味:
読書
自己紹介:
読むのがすごく遅いけど、小さい頃から本を読むのが大好き。

大好きな作家は、ジョン・アーヴィング、筒井康隆、津原泰水、中上健次、桐野夏生、北村薫、金井美恵子、梨木果歩。

コンプリート中なのは宮部みゆき、恩田陸、松尾由美、三浦しをん、桐野夏生、北村薫。今のところ、多分著作は全部読んでいます。
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