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豚がつづる読書ブログ
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★★★

荒廃し、スラム化した日本の繁華街シブヤでストリートチルドレンとして生きる少年イオン。

親の記憶が無い彼は人への「愛情」を知らず、自分を助けてくれる唯一の大人モガミにも冷たくしてしまう。
イオンはかつて一緒に育った仲間を探すため、地下の犯罪者集団に飛び込んでいくが、そこも安住の地では無かった――。

序盤は近未来のサバイバル小説という様相で、物語についていけるか少し不安でした。
が、誰のことも信用できないような生活を送ってきた浮浪少年の思考回路や、彼の目から紡がれる路上生活の苛烈さが妙にリアルで、すっと物語に入り込めました。
読者に違和感を抱かせずに世界観を構築する作者のテクニックは、いつもながら凄いです。

そして中盤から、イオンがアンダーグラウンド世界に潜っていく展開の先が読めず、この話はどうなるんだろうと嫌な予感がしながら読み…。
イオンが愛情を求めるのと同じくらい物語が加速していくドライブ感が凄まじく、唐突とも言えるラストの情景に辿り着くまで、一気に読みました。

優しさや愛情というものの正体についての言及が鋭く、考えさせられました。

特定の一人への愛着(愛情)は、エゴイズムなのか。
愛情が深ければ深いほど、どうでもいい他人を傷付ける凶器になったりもする。
しかし、特定の愛情を受けなかった子どもは、その後の人生にそれが大きな影響を及ぼしてしまう…。

親を知らないイオンにとっての大人とは、優しいか優しくないか、どっちつかずかの三種類。
独りきりの時はそれゆえに強かった彼は、他人の気持ちに触れることでを自身の弱さを知る。
悲しくもあたたかいラストは、ひどく心に残ります。

(2019年4月読了)
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★★★★

肉体的あるいは精神的に隷属状態に置かれた人々を描いた短篇集。


とにかくぞくぞくしました。
面白いと言うのは不謹慎かもしれないけど、こんな気持ちにさせてくれる桐野夏生という作家はやっぱり稀有な存在だと思います。

さまざまな時代や設定の中で、奴隷として抑圧状態に置かれた人やその周囲の人を描いていますが、自分の抑圧状態に無自覚な人もいれば、脱出しようと戦おうという人もいます。

暴力によって肉体的に支配される女性を描いた話はとんでもなく苛烈で、過去だけではなく現在でもこのような扱いを受ける女性がいるのだろうと想像するのもおぞましく、反吐が出そうになりました。

精神的に搾取され続ける女性の地下アイドルの話も痛々しかった…。
作中ではアイドルが「キモオタ」に消費されいつかは見向きもされないであろう未来を暗示しており、人間の尊厳を削り取っていく歪んだ構造に寒気がしました。

よく考えたら、人間が二人以上いたら支配と隷属は必ず存在し、それは人間社会の構造上当たり前のことなのかもしれません。
現代日本でも精神的な抑圧は至るところにあって、今の隷属状態から抜け出してもまた別の何かに支配されるかもしれないし、生き続けてるだけで「地獄巡り」みたいなものなのかも。

世界に搾取され続ける人がいることに目を背けず、小説で描くことで絶えず訴え、現代社会を照射し続ける桐野さん。
多分、自分が社会に受けた怒りが小説を描く原動力になっているのかな。
私はデビュー以来桐野作品の登場人物にずっと共感してるし、自分の気持ちを代弁してくれてると思ってます。
桐野さん、大好き…いつまでも作品を追って読んでいきたいです!

(2019年2月読了)
緑の毒 緑の毒
桐野 夏生

角川書店(角川グループパブリッシング) 2011-09-01

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★★★

妻が浮気をする水曜日にレイプ犯罪を繰り返す開業医の川辺。
被害者の女性たちは警察に届けず、自分たちで犯人を追いつめていく。

剥き出しの欲望の痛々しさと、川辺のあまりの卑劣さに閉口しながら読了。

自己顕示欲や嫉妬などの制御できない負の感情に突き動かされ、表面張力ぎりぎりのところまで来た人間達の右往左往が、俗悪を通り越して、なんだかコミカル。
ひたすら読者の共感を拒む人物描写が、いっそすがすがしい。

ただ、登場人物が多過ぎて掘り下げが足らず、散漫な印象を受けた。
尺が足りないせいかラストも唐突に終わり、すべてにおいて中途半端な感じ。
いつものように悪意溢れるドロドロの心理描写が、もっと読みたかった。   

(2012年7月読了)

★★★★

私有財産と個人の欲望を否定した理想郷の建設を目的として、かつて東北の寒村に作られた唯腕村。
しかし近年、過疎化や高齢化の影響は避けられず、創立者の孫・東一(といち)は共同体の維持にあえいでいた。
ある日、村にマヤという美少女が漂流してきたことをきっかけとして東一は暴走を始め、村を己の意のままに改革しようとする―。
 

高邁な理想を掲げてつくられたユートピアの内実は、ドロドロとした生臭い欲望にまみれた現実社会そのもの。
ユートピアが、その本来の意味である「どこにも無い場所」であることを皮肉にも実証している。

そんな村の純血種、欲望の申し子である東一のキャラクターが強烈。
自己中で貪欲で狡猾な東一の人間性に辟易しながらも、でももどこか愛嬌があって憎むことができない。
村を一度捨てるも、やっぱり村に囚われていて結局そこを拠り所とするしかない彼が何だかかわいそうになってくる。

母親に運命を翻弄され、東一の欲望に蹂躙される、少女であるマヤの無力さも痛ましい。
弱者である彼女が図太さを身につけ浮世をサバイブし、凡庸なカタルシスを抱かせないところが桐野作品らしい。

ただ、北と関わりのあるマヤの母親の物語が、本筋の唯腕村の物語にフィットしていない。
要素を詰め込みすぎていくつかのテーマはなおざりにされているため、お話としての強度を欠いている気がする。

面白いけど、なんかとっちらかっている印象を受けた。

(2011年7月読了)

★★★

古事記を大胆に練り直した新しいストーリー。

神話が元になっているせいか、いつもならこれでもかと鼻先につきつけられる、女性の露悪的な暗黒描写も控えめで、読みやすくなっています。
しかし、やはりこれも桐野ワールド。たとえ神であっても嫉妬や愛憎からは逃れられず、むしろ男と女の深くて大きな溝が浮き彫りに。

深い執念の愛情に閉ざされ、狂気を滲ませながら自罰を叫ぶ女神の姿が切なくも恐ろしい。

(2009年6月読了)

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sis
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読書
自己紹介:
読むのがすごく遅いけど、小さい頃から本を読むのが大好き。

大好きな作家は、ジョン・アーヴィング、筒井康隆、津原泰水、中上健次、桐野夏生、北村薫、金井美恵子、梨木果歩。

コンプリート中なのは宮部みゆき、恩田陸、松尾由美、三浦しをん、桐野夏生、北村薫。今のところ、多分著作は全部読んでいます。
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