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豚がつづる読書ブログ
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★★★

二十歳になったアキは百人を配下にした渋谷のチームを解散後、ヤクザや政治家などの裏金を専門に強奪する犯罪プロフェッショナルの仲間になることを決意する。

あらゆるクライム・テクニックを修得するために仲間の柿沢と桃井から様々なトレーニングを受けるアキ。
彼の実戦デビューは成功するのか──。

「ヒートアイランド」第2弾。
アキが犯罪のプロになる成長物語、といったお話で、倫理的にはアレですが中々面白かったです。

裏の顔を作るために戸籍や住所・車を手に入れたり、格闘技や銃の扱いや経済知識を学んだり…。
物語の前半はタイトル通り、一人前の泥棒になるための修行がつぶさに説明されていきます。
この通りに習得したらほんとにアンダーグラウンドのプロになれそうな実践的なレッスンで、読み応えがありました。

最終章はいよいよアキの初仕事、実戦デビューのお話。
ヤクザの裏金を強奪するためにホテルに忍び込んで電源やセキュリティシステムに細工したり、賭場に乱入したり…。
用意周到な準備とド派手なアクションシーンで読者を小気味よく惹きつけておきながら、最終的にはまさかのガムテープ探しというアナログなアクシデントにアキたちは右往左往…というのが笑えます。
この肩すかし感というか、ドラマの緩急の付け加減が絶妙で、読ませる仕掛けが半端ないと思います!

また、前作は魅力的な女性キャラが出てこなくて残念だったのですが、今回は個性的な女性が複数登場したので満足でした。
桃井の昔の彼女、コンパニオンの明美、家出中年女性と、どの女性も、迷いながらも最後には自分の人生を覚悟を持って引き受けていく様子が描かれています。
逆に言えば覚悟を決めた者だけが人生を変えられるのかも…と思いました。
みんな、男性陣よりもカッコよくて、ゲストキャラだけどまた今後も出てきてほしい!と思うほど印象的でした。

ヤクザの柏木の番外編も含蓄のある内容で、すごく面白かったです。
なんか読んだことあるな、と思ったら「人生教習所」の柏木さんなんですねー!!
というか、この「ギャングスター~」の方が先だったんですね…こっちを先に読めばよかったわ…。

(2020年1月読了)
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★★★

元経団連会長が主催し、そうそうたる団体や企業が後援する「人間再生セミナー 小笠原塾」。
募集広告を目にして集まった個性的な人々は人生の再起をかけ、それぞれの思いを抱いて参加する。
果たして彼らは人生をやり直せるのか。

人生に行きづまった人たちが小笠原で自己啓発セミナーを受ける。
その美しい自然と数奇な歴史に触れることによって、登場人物たちは少しずつ変わっていく。
それだけの話なのですが、妙に心に残るものがありました。

前半は人生の成功確率論や人生の目的設定、自己認知などのセミナーの様子が淡々と描かれ、後半は小笠原の歴史と共に生きた島民たちの体験談が語られていきます。

セミナーを受けただけで人の気持ちはそんなにすぐ変わるものではないと思いますが、気づきを得て少しずつ変容していこうとする登場人物の心の動きは気持ちよく、何だか嬉しかったです。

物語の力点は自己啓発セミナーの内容や小笠原の歴史に置かれているので、キャラクターの絡ませ方やエンタメ小説としての緩急はイマイチだったかな。

でも、年齢は関係なく、心持ちが若い人の再出発を見るのは(読むのは)、いいものですね~。

(2019年1月読了)
真夏の島に咲く花は (講談社文庫) 真夏の島に咲く花は (講談社文庫)
垣根 涼介

講談社 2010-02-13

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★★★

南太平洋上の国、フィジーを舞台としたストーリー。
日本から両親と移住してきたヨシ、ガソリンスタンドで働くフィジアン・チョネ、父のお土産物屋を手伝うインド人・サティー、ワーキング・ビザでフィジーに来た茜の4人の若者。
ある日フィジー人によるクーデターが起き、首都から離れた4人の暮らす街でも影響が出始めた。
そんな時、チョネの元恩師のトラブルが起き・・・。

最初の100ページくらいは、主人公4人の日常風景が丁寧に描かれ、フィジー現地ののんびりとした雰囲気のように、物語はゆっくり進んでいきます。
彼らの恋愛模様が描かれていく中で、価値観や性質の違うインド系移民と元々フィジーに住んでいた現地人の共存の様子や、フィジー人ののんびりすぎる気質や個人所有という概念の無さからくる二つの民族の葛藤などが織り込まれ、自然とフィジーの社会構造が頭に入ってきます。

クーデターが起こってからも、首都とは離れているせいかゆったりとしたテンポでお話は進んでいきます。
こういう場合、日本だともっと大騒ぎになると思うのですが、主人公たちの生活にじわじわ影響が出てからもテンポはあまり変わらないので、その感じが妙にリアルでした。

他の垣根作品のような圧倒的なスピード感と緊迫感を求めていると肩透かしを食らうはめになりますが、人間の幸せについて熟考させられる良作だと思います。

資本主義社会にどっぷりつかっている私たち日本人と、お金も所有概念もないフィジー人のどちらが幸せなんでしょうね。
民族が異なると価値観も違うように、幸福のものさしは人それぞれなのかなあ。

どれも正解で、今いる場所が楽園だと、ゆるく考えればいいんじゃないと垣根さんは言いたいのかもしれないですね。

(2017年5月読了)
ヒートアイランド (文春文庫) ヒートアイランド (文春文庫)
垣根 涼介

文藝春秋 2004-06

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★★★

ストリートギャング仲間をとりまとめファイトゲームを主催するカオルとアキ。
渋谷を舞台に、彼らストリートギャングと強盗と二つのヤクザ集団が大金をめぐって四つ巴を繰り広げる。
生き残るのは誰か?

いきいきとした男たちのハードボイルド活劇。

渋谷のストリートギャングの生態なんて想像もつかないけど、実際はこうなんだろうなと思わせてくれるいかにもありそうで絵空事でない感じが上手いです。

スピード感、設定、人物造形、どこをとってもエンタメとしての魅力抜群。
先の読めないスリリングな展開に、どきどきしながら一気に読みました。

ただ、魅力的な女性キャラが出てこないのは残念。

こういうタイプの話は大抵モノみたいに扱われる女性しか出てこないので・・・次回作に期待です。

(2015年3月読了)
迷子の王様: 君たちに明日はない5 迷子の王様: 君たちに明日はない5
垣根 涼介

新潮社 2014-05-22

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★★★★★5つ!

リストラ請負会社で働く真介は、今日もリストラ面談に明け暮れていた。
しかし、リストラ請負という仕事が社会的意義を失ったという社長の判断によって会社が廃業となり、
真介は岐路に立たされる。
シリーズ完結篇。

これで終わりなんて、ずいぶんあっさりしているなあ、というのが最初の感想。

でも、じわじわと、きます。

最終話のタイトルは「オン・ザ・ビーチ」。
これ、ジャック・ケルアックの「オン・ザ・ロード」を
もじっているのかなーと思いました。

沢木耕太郎さんの「深夜特急」で、主人公がすれ違った旅行者に「禅とは何か?」と
問われた時、「オン・ザ・ロード(途上である、ということだ)」と答えるのですが、
この「君たちに明日はない」シリーズも、「仕事、恋愛、ひいては人生とは、
常に途上であるということだ。」
っていうことを言いたいんじゃないかと。

前巻までは、真介と陽子は最終的に結婚するのかしら?と思っていたのですが、
「途上にある」ということなら、
ラストも納得できます。

結婚しても、しなくてもいい。
真介は誘われた仕事を選ぶかもしれないし、選ばないかもしれない。

全ては、その時点での最良の選択肢を選ぶという、「途上にある」ということ。

P108
「大事なことはなんだ。会社に残ることか。それとも次の就職先を探すことか。食うための仕事を探すことか。たぶん違う。そんなレベルじゃ、人は本当には生きられない。食うためだけに仕事をする人間は、いつの時代だって結局その仕事からは、永久に報われることはない」

P204
「今の時点で判断できないことは、また状況が変われば、その時に判断すればいい。そういう曖昧な自分を許しておく。というか、その時が来たら嫌でも判断せざるを得ない。そういう意味で、未来は常に不確定です。そしてその分だけ、気楽です。つまりぼくたちの今は、死ぬまでずっと連続した、一つの通過点でしかない」
「たぶん職業も暮らす環境も含めて、今というこの時間は、常に暫定仕様です。むしろその無常を意識して過ごすことに、意味があるんじゃないでしょうか」


シリーズを通して作者が読者に問いかけた「仕事とは?」「人生とは?」という問い。
作者は
心の底の深いところで納得できる、実にまっとうな回答を用意してくれました。

時々挿入される日本の経済情勢予想には作者の意見が反映されているようですが、
押しつけがましくは無いんだけどちょっと面映ゆかったです・・・。


(2014年10月読了)
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プロフィール
HN:
sis
性別:
非公開
趣味:
読書
自己紹介:
読むのがすごく遅いけど、小さい頃から本を読むのが大好き。

大好きな作家は、ジョン・アーヴィング、筒井康隆、津原泰水、中上健次、桐野夏生、北村薫、金井美恵子、梨木果歩。

コンプリート中なのは宮部みゆき、恩田陸、松尾由美、三浦しをん、桐野夏生、北村薫。今のところ、多分著作は全部読んでいます。
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