豚がつづる読書ブログ
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倒立する塔の殺人 (ミステリーYA!) 皆川 博子 理論社 2007-11 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
★★★
戦中から終戦後へかけての女学校を舞台としたミステリ。
空襲で家族を失った女学校の生徒・阿部欣子は、級友の三輪小枝からあるノートを渡される。
そのノートは表紙に「倒立する塔の殺人」と書かれ、数人の女学生の間で書き継がれた物語だった。
小枝にノートを託した先輩・上月葎子が空爆によって死んでしまい、未完となった物語を欣子の視点から解読して欲しい、と小枝は言う。
「倒立」とはいったい何なのか、上月葎子はなぜ死んだのか・・・。
作中小説と現実とが絶妙に絡み合う入れ子構造のミステリ。
入れ子構造というだけでも複雑なつくりになっているのに、語り手の欣子は手記を順番通りに読まないので、読者は頭がこんがらがってきます。
ノートに書かれた作中小説の「倒立する塔の殺人」があり、その小説を書いた少女たちの手記があり、さらにその外側にノートを読む欣子がいて…という入れ子の入れ子となっており、しかもそれぞれ謎が散りばめられています。
事実と虚構が絶妙に同居してて面白いのですが、情報を整理しキーとなる伏線を拾っていくだけで精一杯でした。
また、著者が実際に経験したのであろう戦禍の描写が生々しく、リアルでした。
空襲で家族や友人を次々と失い、死が日常となったことに麻痺してしまう少女たちが虚無感をつのらせていくさまは胸にこたえました。
閉塞的な状況の中、彼女たちは絵画や文学に耽溺したり、ワルツを踊ったり歌ったりといった密やかな楽しみを共有します。
制限されているからこそ、美に触れることで現実からの逃避をはかったり精神の均衡を保っているのかもしれない。
そんな彼女たちが哀れでしたが、人間の渇望に力を与える芸術の大きな力も感じました。
友人の死という物語を必死に紐解こうとする彼女たちには未来への希望も感じることができます。
ミステリの謎解きはよくわからなかったのですが、それだけに終わらない大きな物語世界を堪能できました。
(2016年12月読了)
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自己紹介:
読むのがすごく遅いけど、小さい頃から本を読むのが大好き。
大好きな作家は、ジョン・アーヴィング、筒井康隆、津原泰水、中上健次、桐野夏生、北村薫、金井美恵子、梨木果歩。
コンプリート中なのは宮部みゆき、恩田陸、松尾由美、三浦しをん、桐野夏生、北村薫。今のところ、多分著作は全部読んでいます。
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